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予言なんてクソクラエ
第十章 神と霊
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会える。」その思いは自分でも信じられないほどの動揺をもたらした。
 先ほどの電話が脳裏に繰り返し甦ってくる。警視庁の捜査一課で同じ釜の飯を食った榊原警部補からの電話だった。
「おお、マドンナか、どうだ元気にやってるか。おいおい、なんて悠長なこと言ってる場合じゃないんだ。大変な情報提供者がそっちの捜査本部に向かっている。そいつから話を聞いてくれ。そいつの名前は石井真治。元池袋署の刑事だ。今は、探偵をやっている。」
「……」
「高円寺のアパートで殺された坂口さくらも連続暴行魔にやられたって聞いた。そうだろう?」
「……、は、はい。」
「坂口さくらのアパートから出てきたのが二十歳前後の男ということだったが、石井が言うには17歳の少年で悟道会に関係しているらしい。その少年は悟道会に監禁されていたとも言っている。まあ、とにかく石井がそっちに行くから、頼んだぞ。」
「は、はい、分かりました。」
受話器を置いてからもしばらくぼんやりとしていた。そしてようやく自分の役割に思い当たった。指揮をとる田村警部のもとへ報告に走った。
 五十嵐の動揺は石井に会えるということだけではなかった。悟道会という言葉が頭の中でこだましていた。小林刑事とコンビを組んで追い詰めた、悟道会教祖、杉田啓次郎の長男、杉田満、当時15歳。
 殺害された二人の少女の交友関係から浮かび上がってきた容疑者だったが、上からの圧力に屈した田村警部の横槍でなかなか核心に迫れなかった。恐らく杉田教祖が子飼いの安東代議士を通じて金をばらまいたのだ。
 手をこまねいているうちに、教祖一家のクルーザーが八丈島に行く途中転覆し、満一人行方不明となってしまった。何か作為があるのではないかと小林刑事と葬式に出かけたが、母親の悲しみようは芝居とも思えず、二人、重い足取りで帰路についたのだった。
 しかし、つい最近にになって、捜査本部の空気はがらりと変わったのだ。何故なら先週の日曜日、渋谷で杉田満を見かけたという人間が現れたからだ。かつて五十嵐が情報を得ようと接触した満の遊び仲間の証言である。彼は渋谷の雑踏で満を見かけ呼び止めた。すると満は逃げるようにその場を去ったというのだ。
 死んだはずの人間が生きていた。その人間はかつて捜査線上に浮かび上がったことがある。とすれば、父親である杉田啓次郎が息子の事故死を装ったという疑いが生じる。刑事達が杉田宅と悟道会ビルを訪ねたが、夫婦共々姿を消していたのだ。
 そして、満と思しき人物が坂口さくらのアパートにいたという証言者が、あの石井真治なのだ。この偶然はいったい何なのだろう。自分の熱意が石井に乗移ったとでもいうのだろうか。
 五十嵐は、肩肘を張っていたあの頃の自分を思い出し、思わず赤面した。本庁の刑事に抜擢されたのが自分の実力だと思い込んでいた。しかし、今にして思
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