第十章 神と霊
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井は話しはじめた。三枝のことも予言のことも全て正直に話した。二人はじっと耳を傾けている。話しおえると、石井はおもむろに茶碗を取り上げ冷えたお茶を啜って、二人の反応を窺った。最初に応えたのは龍二だ。
「それで磯田は東京を離れ富良野に向かったのか。奴らしい。しかし、そんな兆候はどこにもない。」
「そんな兆候とは。」
石井が聞くと
「つまりそんな大災害が起こるのなら、動物がまず察知する。彼らはそうした本能が、我々みたいに退化していないから、敏感に反応する。反応すれば何処か安全な場所に避難しようとするだろう。鎖に繋がれた犬は半狂乱になって吠えまくるはずだ。」
と答え、それに佐々木が応じた。
「そうよ、それに女は男と違って本能をすっかり退化させてはいないわ。こういう私も実は感が鋭いの。もしこの二月の間にそんなことが起こるとすれば、何かしら胸にざわついたものがせり上がってくるはずよ。そんな兆候全くないもの。」
石井はおやっと思った。予言の話のインパクトが弱かったのか、ふと語った内容を振り返った。二度目だし、磯田に語った時より真に迫っていた。しかし二人の反応は磯田に比べて鈍すぎる。不思議に思っていると、龍二がおもむろに口を開いた。
「なあ、真治。まさか真治もそんな大災害が起こると信じているんじゃないだろうな。あのノストラダムスの大予言を信じて人生を狂わせた人も相当いるっていう話だ。真治がその手の話に乗るとは思わなかったな。」
佐々木がまるで合いの手を入れるように話を引き取った。
「まったく、その悟道会にうん千万円の金をつぎ込んで、世間を置き去りにした人達は、どの面下げて世間に戻ってくるのか見ものだわ。」
石井はあっけにとられた。こうゆう冷静沈着な人達もいるのだという驚きだった。龍二がにやにやしている。佐々木も同じだ。二人は見合わせ微笑んだ。
「実はな、真治。俺と女房とこの佐々木さんの三人は体験者なんだ。予言という世迷言に振り回された体験者ってことだ。俺がまともな職業につかなかったのもノストラダムスの予言を半分信じていたからだし、女房と一緒になったのも、長野で開かれた日本のある預言者の会で一緒になったからなんだ。行きも帰りも同じ電車だった。」
「げっ、それって本当ですか。」
佐々木が答える。
「本当よ。私もその会に出席したわ。もっとも三人ともその会の集会に参加したのは、大災害が予言された日の二週間前、その時が最初で最後。でもあの時は驚いたわね。その預言者、一人一人の悩みを、顔を見ただけで言い当てて、こうしなさい、ああしなさいってなんて助言するんだもの。」
「そうそう、あの付近の何とか岳とかいう岩山が崩れて、女性ロッククライマーが転落死するという予言が二日後に実際に起こって、新聞記事に載った。本当に驚いたよ。」
石井が息せき切って聞いた。
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