第九章 逃亡
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るのである。彼は56歳にして、生きながらにして死後の世界を探訪する能力を得て霊の世界の様子を語り始める。そして死後の世界を科学者の冷静な視線で観察し続け、緻密で整合性をもった霊界を描いた。
実は、スエデンボルグの語った霊界はユングの集合的無意識に繋がるのである。石井は霊界がユングの言う集合的無意識の中に存在すると考えた。そしてある時、そう考えたのは石井だけではなく、ユング自身もそう考えていた節があることに気付いたのである。
実は、カール・G・ユングは、医学生の頃からスエデンボルグの著作を読みふけり、彼に心酔していたのだ。そして彼はその著作の中ではっきりと「集合的無意識は、」「心霊的内容」を含むと明言しているのである。
ユングは明らかにスエデンボルグの語る「霊界」から「集合的無意識」のインスピレーションを得ており、石井と同じようにスエデンボルが語った「霊界」が集合的無意識という大海に存在すると考えていたと考えられるのである。
そう、大河の一滴が戻るべき『母なる海』とはこの集合的無意識なのだ。人は長い旅路を終え、この無限の大海に身をゆだねる。多くの縁のある者たちに囲まれ、静かな穏やかな日々を送る。
いや地獄界ではそうもいかないかもしれない。罵りあい、憎しみあい、傷つけあう日々なのだろう。そしてある日、宿縁によって結ばれた人々が、天界から或いは地獄界から、新たな魂の修行の旅に出る。「オギャア」と産声をあげるのだ。
石井はこの考えを誰にも話してはいない。いや大竹にその一端を話した。大竹の反応は芳しくなかったが、それはそれで致し方ない。誰も見たことのない霊界の話など、まともに聞く気にはならないだろう。
ああでもないこうでもないと熟考する石井は、若者が後をつけているのに全く気付いていない。若者はさくらの後をつけていた二人の内の一人で、石井が何者なのかを探ろうとしている。思考を重ねる石井は大災害のことはすっかり忘れていた。
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