第九章 逃亡
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予言の真実を知らせてくれてもよさそうなのだが、秘密の門はぴったりと閉ざされたままだ。いったい何時それが起こるのか、それが問題だった。そういえば、ふと、母が霊とやりとりする姿を思い出した。
その時、確かに母は霊の姿を見ていた。小学生5年のある日、家に帰ると、母がソファに座り、目を閉じて誰かと話している。部屋には誰もいない。
「そうなの、自殺したの。神様はそれを一番嫌うのよ…。でも大丈夫。一生懸命祈りなさい。祈りによってその袋小路にも道が開けるはずよ。うーん、祈りの言葉は、何でもいいの。ようは自分の非を認め神様に許し請う必死な気持があればいいのよ。きっと道が開けるわ。うん…うん…」
目を見張って母親を見ていた。しばらくして、話が終わったらしく、目を開け石井に視線を向けた。石井は今日こそ聞いてみようと心に決め、待ち構えていた。
「お母さんは幽霊が見えるの。」
「ええ、見えるわ。」
「怖くない。」
「怖くなんかないの。だって幽霊だって人間と殆ど変わりないもの。」
「でも、幽霊は人に取り憑いて悪さをするって本で読んだことあるよ。」
「そうね、そういうこともあるかもしれない。でも心のしっかりした人には霊は取り憑けないの。」
「何で?」
「悪い霊は、悪い思いを抱いている人に乗り移るの。だから悪い思いを抱いていない真治には乗移れないわ。だから人を憎んだり、恨みを抱いたりしてはいけないのよ、分かった。」
確かに母はあの世のことを知っていた。でもこうも言っていたのである。
「あの世は、あの世の人しか分からない。でも、あの世の人も本当のところは何も知らないの。詳しく聞けば聞くほど、困ったような顔をして曖昧に笑うだけ。まして生きている人間には知りようがないのよ。」
しかし、その後、石井はあの世を実際に見てきたように語った人物のことを知った。大学時代、石井は彼の著作に夢中になった。彼の残した膨大な著作は、この日本において数多く邦訳され、その真価を問われ続けている。
彼の名は、エマヌエル・スエデンボルグ。彼は終生政治家として過ごしたが、科学者としても様々な分野において先駆的な業績を残した。しかし、彼の人類に対する最大の貢献は、あらゆる分野の先駆的人々、例えば宗教家、思想家、科学者、小説家等に多大なインスピレーションを与えたことである。
科学者としての彼は当時でも高く評価されていたが、現在に到って18世紀最高の科学者として再評価されている。それは図書館に奥深く眠っていた彼の著作が現代語訳され、彼の研究が当時の科学レベルを遥かに超えていたことが今日の科学者達を驚かせたからである。残念ながら、当時、彼の研究を引き継ぐ者はいなかったのである。
しかし、彼の「人類に対する最大の貢献」は、奇妙なことなのだが、彼の残した霊界に関する膨大な著作によって為され
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