第九章 逃亡
[4/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
に投じた莫大な金と最新の科学技術が一瞬で瓦礫の山になるということだ。しかし、考えてみれば、それも生きていてこそ価値がある。死んでしまっては元も子もない。
満は杉田や片桐が自分を捨てて富良野に逃げたことを知っていた。それでも許しくれた。しかも、今度こそ確実に安全な場所に案内するというのだ。満とは一蓮托生なのかもしれない。こうなるよう運命付けられていたのだ。
(三)
こうした偶然もあるのかと驚き呆れながらも、石井は迷った。ターゲットである不倫カップルは高円寺駅を出て雑踏に紛れようとしている。一瞬、龍二の苦虫を噛み潰した顔が浮かぶ。しかし、石井はこの偶然に引き寄せられた自らの運命に心惹かれた。
カップルとは逆方向に歩む坂口さくらを発見したのだ。石井の財布から10万円をくすね、ホテルから消えた少女だ。少女は監禁された少年を救い出したらしい。石井は不倫カップルの尾行を諦め、踵を返しさくらの後を追った。
さくらは、行き交う人々をきびきびと避けながら歩いてゆく。買い物袋が重いらしく肩を大きく傾けている。石井は顔を知られているが、つけるには楽な相手だ。さくらに警戒心はない。
しかし、石井は、自分以外に、さくらをつける二人連れの若い男達がいようなど思いもしなかった。二人の男達は距離を置いてつけていたのだが、後続の一人がさくらの後を追う石井の存在に気付いた。そして男は石井の後ろにぴったりと張り付いた。
さくらは10分ほど歩いて木造の二階建てアパートの一室に消えた。石井は正面に出て灯かりのついた部屋を見上げた。さくらが入り口のドアを開けた時、部屋から灯かりが漏れていた。誰かが部屋にいたことになる。あの少年がいるのだろう。
石井は後悔していた。さくらや少年の居所が分かったとして、それが何になるのかということである。悟道会にとって少年がどんな存在だったのか、また悟道会が少年を監禁したという事実が何を意味するのかも全く分からないからだ。
だとしたらビジネス対象である不倫カップルの写真を撮ることの方が今の自分には重要な仕事だったのではなかったか。予言のことなど忘れようとしながらやはり予言に関わることを優先させてしまった。苦笑いして呟いた。
「今の俺には関わりのないことだ。」
石井は歩き出した。深いため息をつき、そして母に語りかける。
「母さん、本当に予言は当たるの。この日本で、生き残れるのが稀だという大災害が本当に起こるの?どんなの?」
深い紺色の夜空は星星が煌き、魂が吸い込まれてしまうような深深とした天の海が広がっている。その彼方に母親の面影を求めた。ふと、母親が死ぬ前に語った言葉を思い出した。
「死後の世界は本当にあるのよ。私の方が先にあの世に行くから、そこから真治のことをずっと見守ってあげる。」
今も見守ってくれているなら、
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ