第九章 逃亡
[1/6]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
(一)
カタカタとせわしげにキーボードを叩く音が響く。目の前にはうずたかく資料が積まれ、その陰に隠れて磯田が何やら蠢いている様子だ。しばらくして、メール受信のメッセージが届いた。磯田からだ。そこには、こうある。
「おい、奴等の様子がおかしい。あのビル全体がどよめいている。何かが起こった。これは間違いない。これについて情報は?それと、あいつら信者の間に妙な噂が広がっている。この日本に近々大災害が起こると言う。これについて、何か聞いていないか?」
石井は立ち上がって磯田に話しかけた。
「磯田さん。もう、止めにしませんか。お互い、あの日のことは忘れましょうよ。ちょっとコヒーでも飲みにゆきませんか?今の質問に対する情報は盛りだくさんです。」
磯田が山積みされた資料の山からぬっと顔をのぞかせた。その目に猜疑の色を浮かべている。龍二がにこっとして二人に割って入った。
「そうだ。何があったか知らんが、コーヒー一杯で片がつくのなら、時間など気にせず行ってこい。おい、磯田、すぐにでも行け。」
二人が連れ立って事務所を出ると、龍二と佐々木はほっと胸を撫で下ろし頷きあった。それほど石井と磯田の冷たい戦争は二人にとって心の負担となっていたのだ。
近所の喫茶店に入りコーヒーを注文した。ウエイトレスが去ると、石井が聞いた。
「あのビルで何が起こっているのです?」
「よく分からんが、四日前、教祖の杉田が戻った。残念ながらあんたの初恋の人は一緒じゃない。」
石井がむっとして黙っていると、磯田が続けた。
「兎に角、普通ではない。あのビルから何人もの若い男が何処に行くのか飛び出して行った。そのうちの何人かをつけてみたが、あの様子だと、どうやら誰かを探しているらしい。誰を探しているのかは分からない。」
石井は凡その筋書が読めた。何も隠すつもりはない。真実を語ろうと思った。
「実は、あのビルに一人の少年が軟禁されていました。恐らくその少年があのビルから逃げだしたのでしょう。富良野で出会った少女が少年を救い出すと言ってましたから、多分それが成功したんだと思います。」
その経緯を、石井は正直に話した。磯田は石井の語る一言一言を脳の襞に刻み込むかのように聞き耳をたてていた。石井が語り終えると、
「それと、石井さん、予言の話はお聞きになりませんでした?」
と、妙に丁寧な口調で聞き、探るような目つきでじっと見詰める。深い溜息とともに石井は、三枝節子のことはふせたが、耳にした全ての予言、フィリピン航空やイラン大地震、そして日本を襲う未曾有の大災害についても語った。生唾を飲み込む音が何度か聞かれた。磯田はその日一日そわそわと過ごしていたが、翌日姿を消した。
それでも、試験で休んでいた大学の空手部の後輩二人を駆り出すという手際をみせ、その一人の山口が「磯田さんは
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ