第八章 最後の審判
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(一)
時として訪れる静寂は、収束するかもしれないという淡い期待を何度も裏切り続け、人々の心に暗い予感を抱かせるに十分な不気味さを湛えていた。地の底から響いてくる地鳴りは日本列島全体を覆い、頻発する地震はそのつど人々を恐怖のどん底へと突き落とした。
テレビでは24時間体制で緊急特番を組んでいるが、地震予知連絡会も大学の教授達も打ち続く地鳴りの原因を説明できない。人々は恐怖に震え、眠れぬ夜をすごし、ようやく朝を迎えた。政府も非常事態宣言を発し、人々はそれぞれの避難所で肩を寄せるようにうずくまっている。
これは日本ばかりではない世界中、というよりヨーロッパ及び北米でも同じ様に地鳴りが頻発していたのである。避難所でテレビを囲う人々は、時折襲う地震が、映像がやや遅れるものの各国ほぼ同時であることに気付いていた。一人が呟いた。
「この世の終りかねえ。」
無精ひげを手で触りながらサラリーマン風の男が
「子供の前で変なこと言わないで下さい。」
とたしなめてみたものの、傍らで父を見上げる少女以上に不安げな目で周囲を見回した。押し黙る人々には、それぞれ心の許容度に応じた形で諦めの表情が浮かんでいる。無精ひげの男は少女の肩を引き寄せぎゅっと抱きしめた。
2日目に入り地鳴りはほぼ連続して、大きいもの、小さいもの、それぞれがうねりのように共鳴して鳴り止む暇もない。人々の心は恐怖にうち震え、何時起こっても不思議のない大災害の不安で、誰もが発狂寸前の状態に陥っていた。
そして突然長い静寂が訪れたのだ。テレビのアナウンサーも沈黙した。あたりをきょろきょろ見回している。日本人が一斉に息を飲んだ。何かが起こる。或いは、収束を迎えたのか?人々の心に期待と不安が渦巻く。そしてその淡い期待は見事に裏切られたのだ。
未だかつって誰も聞いたことのない、いや正確にいうなら耳で聞くというのではなく、体の芯を揺るがすような轟音が地の底から響いたのだ。一瞬にして避難所の床が1メートルもせり上がった。人々が宙に舞う。次の瞬間床は地面に叩きつけられた。と同時に壁も天井も粉砕され、雪崩をうって人々に降り注ぐ。再び床がせり上がる。また落ちる。そしてまた…。一瞬にして避難所は瓦礫の山と化した。
都心のビルで原型を留めるのは稀で、ビルと言うビルが倒壊し、のっぽビルの殆どは途中から折れた。その中に閉じ込められた人々の悲鳴は聞こえてこない。破壊の凄まじい轟音、そして地鳴りにかき消されてしまったのだ。
道路はあちこちで寸断され、道に沿って大きく口を開けた地割れに数十台の車が落ち込んでいる。一瞬の静寂の中に人々の助けを求める声や、呻き声が聞こえた。次の瞬間、ゴーという地鳴りと共にその口が閉じられた。
橋は倒壊し、或いは途中で折れ、何十台という車が橋の残骸と共に川面に叩きつけられ、水
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