第八章 最後の審判
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てインチキな名刺の方を渡してしまったようだ。かなり動揺している。石井は探偵事務所の名刺と取り替えた。
そそくさと大竹家を辞したが、石井の動揺は、今日はじめて他人に口にした理論が到底人々の共感を得られるほどに達していないと感じていたからだ。霊界が集合的無意識の中に存在するなど、一般の人にはあまりに唐突過ぎる。
まして、輪廻転生を前提にして、いきなり前世やら霊界やらと言われたら誰しも戸惑うであろう。石井はタクシーを拾い家路についた。タクシーの中で深いため息をつき、調子に乗りすぎた自分を恥じた。
(四)
石井は悟道会が般若心経を唱えていると聞いて不思議なめぐり合わせを感じた。何故なら、般若心経の「色即是空、空即是色」という言葉の「空」こそ、石井が今抱える難問を解く鍵だと思っていたからだ。ここで言う「空」とは、そのものずばり「空っぽ」のこと、そして「色」とは「形のあるもの」を意味する。
この「色即是空、空即是色」を説明するとこうなる。我々の体は分子によって、またその分子は原子によって構成される。その原子は、原子核、それを中心として回る電子、そして両者の間を占める空間により成り立つ。しかし、我々の身体の物質としての実体(原子核と電子)を集めると、小指の先ほどの大きさにもならない。つまり、この体の殆どが空間ということになる。まさに色即是空(形あるもの、即ちこれ空なり)である。
次にこの原子は更に微小な素粒子によって構成されるのだが、現代物理学はこの素粒子が空から突然存在するようになること、そして空が無限のエネルギーの宝庫であることを発見してしまったのである。つまりこれが空即是色(空、即ちこれ形あるもの)となる。
さて、石井が今抱える問題であるが、それは、神の存在をどう証明するかということである。霊界の存在及び輪廻転生の仮説はエドガー・ケイシーの「地上界で生涯を終えるいかなる霊魂もこの世界(集合的無意識)に魂の想念波動を残す。」「再び地上に受肉する時にはこの同じ想念波動を帯びることになる。」という言葉を参考にすればよい。
問題は、ケイシーが熱心なキリスト教徒(輪廻転生はキリスト教の教えに反するのだが)であり、これらの言葉はキリスト教の神の存在を前提にして語っているのである。従って、無宗教の石井としてはキリスト教とは関係なく、論理的に神の存在を明らかにしたいと考えている。これが石井の抱える難問である。
この難問を解く鍵は、やはり空なのではないか?我々の体を構成する原子も電子も波動であり、集合的無意識も波動の集まりである。これらは、空に包まれ空に内蔵されている。「無限のエネルギーを秘める」空も何やら怪しい。空が何らかの形で神と繋がっているのではないかと思えてならないのである。
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