第八章 最後の審判
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た。
その日、五十嵐がアパートにたどり着いたのは夜の11時を少し過ぎた頃だ。昼間五反田の街を散々歩き回って体はくたくただ。つくづく今のアパートを移ってよかった思う。署からバスでうつらうつらして20分。これが有難かった。
五十嵐はシャワーを浴びて一日の疲れを癒すと、ソファに凭れてコンビニで買った梅酒ソーダを口に運んだ。そして大きな溜息をつく。会議では捜査の進展に結びつくような情報は皆無であった。ましてこれまでの3件とはどこか異なる。
殺された女性は16歳から20歳前後で、絞殺されていたことは以前と同様だが、全裸で、しかも歯は全てへし折られいたこと、また死体が巧妙に隠されていたことが前の3件とは異なる。果たして犯人は一人で死体を埋めたのだろうか。
犯人は、深夜、或いは未明、車で遺体を運んだ。そして工事現場に穴を掘り、そして巧妙に地均しした。真っ暗闇では出来ない芸当だ。深夜であれば明りが漏れていた可能性があり、未明であれば立ち去った車が目撃されている可能性がある。
五十嵐は、一日、周辺をしらみつぶしに聞き込みを行ったが、何の手掛かりも得られなかった。忽然と現れ、そして忽然と消えてしまった。そう、単独犯ではないような気がする。足跡さえ消しているのだ。
田村警部の苦虫を噛み潰したような顔が浮かんだ。妻帯者のくせに自分に言い寄るずうずうしさに虫ずが走る。警部補への昇進試験にかこつけ何かと便宜を図ろうとするのだが、その見え透いた誘惑を匂わす言葉。
確かに捜査に専念すればするほど試験勉強の時間などとれない。セクハラで訴えようかと悩んだこともあるが、それをすればいらぬ波風を立てることになる。組織にがんじがらめに縛られ、真綿で首を絞められる思いを感じて初めて父親の思いが理解できるようになった。そして石井のことも。
何故あの時自分は石井の内面をもっと知ろうとしなかったのだろう。いや、石井が酒で自分を誤魔化そうとすることが許せなかった。その姿が父親のそれと重なった。五十嵐は物心ついた頃から父親を軽蔑していた。男は何事にも毅然としているべきだと思っていたのだ。
ふと、手にしたグラスに視線を落とした。桃色の液体の中で細かな気泡がはじけている。最近、これなくしては眠れない。酒の飲めない体質なのに、やはり今の五十嵐の脳はアルコールを欲している。五十嵐はふと呟いた。
「ごめんね、真治。でも、いまさら遅いか・・」
(三)
その頃、石井は田園調布の瀟洒な住宅の前でタクシーから降り立った。清美はすでに門に駆け寄り、インターホンに声を張り上げている。
「パパ、清美、開けて、清美よ、帰って来たの。ねえパパ、開けて。」
既に12時近くだろう、あたりは森閑として物音ひとつしない。清美の何度目かの叫び声と同時に、玄関のドアが開いて男が飛び出て
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