第七章 逃走
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と息を整えているようだ。ようやく落ち着くと、再び静かに語りかけてきた。
「長瀬さん、あの子は、何か勘違いしているのです。貴方に何を喋ったか存じませんが、兎に角、あの子はまだ17歳の子供でございます。母親が保護したいと言うのに、まさか反対はしませんよね。」
「ええ、まあ、母親の貴方がそう仰るのは当然のことです。」
いきなり携帯が取り上げられた。清美が携帯に怒鳴り声を上げる。
「お母さん、私はそこにいたくないの。悟道会なんて私は信じない。お母さんは騙されているのよ。それに、私はお母さんの持ち物じゃあない。私は私。兎に角、お父さんの所に戻るわ。」
暫く母親のヒステリックな声が洩れ聞こえていた。それに対しあくまでも清美は拒絶しているが、静かになった。清美が途方に暮れたように石井を見詰めた。そして携帯を差し出す。どうやら石井を出せと言っているらしい。石井が携帯を耳に当てた。
「長瀬さん。清美は未成年ですよ。まさかホテルに連れ込んだなんて言うんじゃないでしょうね。もしそうなら、今から警察に電話します。よろしいですね。」
反応をみようと押し黙った。
「ちょっと待って下さい。」
ヒステリックな叫び声が響く。
「待てないわ。いいから直ぐにでも清美を引き渡しなさい。さもないと大変なことになるわよ。それでもいいの。一生、悔やむことになるのよ。今すぐ清美を解放しなさい。」
勝ち誇ったような有無を言わせぬ物言いに思わず、石井は熱くなった。
「冗談じゃねえ、この野郎。こっちはホテルの床に寝袋敷いて寝ているんだ。指一本触れてなんかいねえ。それに昨日は危うく殺されかけた。清美さんは、そんなことをする新興宗教団体から逃れたいと言う。警察に訴えるなら訴えてみろ。昨日は一歩間違えれば三人ともお陀仏だった。清美さんが訴えれば、そっちこそ殺人未遂だぞ。分っているのか。」
ぜいぜいという息遣いが聞こえる。うろたえているのだ。
「いいか、よく聞け。これから清美さんに児童相談所に電話させる。そっちの訴えが勝つか、こっちの訴えが勝つか、二つに一つだ。清美さんがこっちにいるんだ。どう見てもこっちに分がある。俺を淫行で訴えるというなら勝手に訴えろ。」
石井は携帯を切った。右手の親指を立てて、清美が飛び上がった。
「おじさん、かっこいい、最高、歳の差、忘れて惚れちゃいそう。104で児童相談所を調べて、私、電話するわ。」
「いや、その必要はない。相手だって自分達が不利なことは分っている。それより問題は、この小さな町からどう抜け出すかだ。相手は大勢、こっちは面が割れた少女が一人いる。恐らくJRもバスも見張られている。」
「どうしたらいいの。」
「何とかする。安心しろ。」
外で女達のけたたましい笑い声が聞こえた。パートの小母さん達が仕事に精をだしている。ドアを開けると向かい
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