暁 〜小説投稿サイト〜
予言なんてクソクラエ
第七章 逃走
[1/5]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
    (一)
 翌朝、目を覚ますと既に10時を少し過ぎていた。ベッドメイキングの時間である。未成年の少女を連れ込んだとなれば問題になる。慌てて飛び起き、ベッドを見ると一人分のふくらみしかない。そっとシーツをめくると清美が静かに寝息をたてている。頬を突っついた。
「おい、さくらはどうした。部屋にいないぞ。」
清美は、寝惚け眼をこすりながら今の状況を飲み込もうとしている。ようやく昨日からの記憶の回路が繋がったのか、息堰切って叫んだ。
「さくら、何処にいっちゃったの。まさかあの人たちに連れていかれたの。」
「まさか、この部屋には誰も入ってきていない。ということは自分から出て行ったってことだ。まてよ…」
石井は脱ぎ捨ててある上着のポケットを探って財布の中を検めた。案の定、一昨日銀行で下ろした10万円がない。3人で動けば人目につくとでも考えたのだろうか。
「どうやら、一人で出て行ったようだ。」
「一人で大丈夫かしら。」
「三人でいるより目立たない。そう思ったんだろう。」
こう言うと、清美は不安そうな表情のまま頷いた。微笑もうとするのだが、顔が歪んだだけだ。清美にもさくらの行動は納得できなかったのだろう。暫くして「覗かないで」と言い残し、バスルームに消えた。
ふと、車のことが気になり、携帯でレンターカー屋に電話をいれた。すると、昨夜路上に駐車してあった軽自動車に追突したと、大竹と名乗る女性から電話があって、弁済手続きについて石井と話したいと言付かったと言う。軽乗用車の借主の名前は明かしていないとのことだ。
石井は清美の母親だとピンときて、すぐさま聞いた電話番号をダイヤルした。
「もしもし、長瀬といいますが、大竹さん、お願いします。」
相手はすぐに出た。電話機の前で待っていたかのようだ。
「もしもし、大竹でございます。長瀬さんと仰るのね。昨夜はさぞ驚かれたことと思います。本当に心からお詫び申し上げます。行き過ぎのあったことは重々承知しておりますが、それもこれも娘を思う親心、どうかお怒りを納めて頂きとうぞんじます。誠に申し訳ございませんでした。」
「全く、ちょっと度を越していましたね。走行中に後ろからぶつかってくるなんて、一歩間違えれば大事故だった。清美さんに、相手は君の命を狙っているのかと聞いたくらいですから。」
息を呑む気配が感じられた。その様子から相手が清美の母親であることは間違いない。
「何ですって、車が接触したと聞いていましたが、わざとぶつけてきたとお仰るの。それ本当の話ですか。もし本当ならとんでもないことですわ。」
完全に頭に血が上っている様子で、その声は裏返っていた。ヒステリックな性格は隠せない。石井はにやりとし、きっぱりと答えた。
「勿論、意識的に突っ込んできましたよ。」
激しい息遣いが聞こえた。冷静さを取り戻そう
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ