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ドン=ジョヴァンニ
第一幕その一
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 追われている男はまたしても怒りの声をあげた。
「わしを捕らえようというのか!」
「その通りです。悪党よ」
 アンナは怒りに満ちた声で男に告げた。
「貴方だけは許しません」
「全く。折角可愛がってやろうというのにだ」
 男は居直った言葉を出した。
「あまりにも騒ぐのでベッドに入った途端に逃げる羽目になったではないか」
「私の純潔は誰にも汚させません」
 アンナは強い声で男に告げた。
「そう、愛しいドン=オッターヴィオ以外には」
「純潔!?そんなものが何だというのだ」
 男は純潔と聞いて強い拒否反応を見せた。
「そんなものがな」
「アンナ!」
「お父様!」
 ここで厳しい大柄な男が出て来た。マントを羽織りその手には剣を持っている。顔立ちはまるで岩石のようで口にはピンと張った黒い口髭がある。
「この男は」
「不貞の輩です」
 父と呼んだその厳しい男に告げるアンナだった。
「どうか騎士長としてこの男に天罰を」
「わかっておる」
 言いながらもう剣を抜いて男に向かっていた。
「わしが成敗してやろう」
「ほざけ、老いぼれが」
 男も騎士長が剣を抜いたのを見てその剣を抜いた。
「私に剣を抜けた罪、償わせてやる」
「罪人は貴方です」
 アンナはその彼に対してきっとした声で告げた。
「私を汚そうとしてまだそのうえ剣を抜くとは」
「私にとって罪とはこの上ない甘美なもの」
 男は不敵に笑って言い放った。
「そして迫り来る輩は誰であろうと斬る」
「やれやれ、まただよ」
 隅に隠れているあの者が今のやり取りを見ながら溜息を出していた。

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