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予言なんてクソクラエ
第五章 失踪
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さすがに北海道である。東京はまだ秋の気配に乏しいが、こっちは既に紅葉のまっさかりである。
 
 まっすぐな道が何処までも続く。この大地の大陸性気候は日本とは思えない雄大な風景を生み出した。枯れかけた草原は風にたなびき、その波のようなうねりは夕日に映え、黄金のきらめきを以って眼前に迫ってくる。
 バスのフロントガラスから見える真っ直ぐな道が空と接し、その空の高みまで進むと眼下には草原の輝きがはるか地平線まで続く。ぽつりぽつりと見える家はどれも冬篭りに備えているかのようにひっそりとしている。「しかし」と石井は呟いた。そして目まぐるしく思考が回り始めた。

 特殊な能力を持つ人間は、世の中に掃いて捨てるほどいる。石井のこれまでの人生でも不思議な能力の持ち主の何人かと出会った。人の心を読む人、未来を予知する人、霊に敏感な人。そして、石井の亡き母はそれら全ての能力を持ち合わせていたのだ。
 あれは小学校3年生のことだ。学校から家に帰ると、母が言った。
「今日、明人君と喧嘩したでしょう。顔に書いてあるわ。」
明人とは友達になったばかりで、母はその名前さえ知らないはずだ。
「どうして分かったの、ママ。明人君はまだ家に連れてきたことないよ。」
「今ねえ、真治が、遠ざかってゆく友達に、明人の馬鹿野郎って叫んでいる姿が突然浮かんだの。どう当ってた?」
石井はいつものことながら母の不思議な能力に驚嘆したのだが、その時、ふと、母と自分の意識は繋がっていると感じた。このことがあったからこそ、世の中には集合的無意識に瞬時にアクセス出来る人が稀に存在するという事実を素直に受け入れたのだ。
 そして後年、石井は20世紀の最も偉大な神秘的霊能者と言われたエドガー・ケイシーに興味を抱いた。何故なら、彼は明らかに、個々の無意識が深奥で繋がって形成される集合的無意識にアクセスしており、しかもそこに霊が関係していると感じたからだ。

 石井が最も興味を抱いたのは、ケイシーのフィジカルリーディングと呼ばれるものだ。このフィジカルリーディングとは、彼の息子、ヒュー・リン・ケイシーが彼の著作の中でこのように表現している。
「1910年10月9日のニューヨークタイムスの記事にこうある。
     無学の男、睡眠下で医者となる!
        エドガー・ケイシーの披露する
            不思議な力に医師ら茫然」
 つまりフィジカルリーディングとは、病気に苦しむ人々に対する処方箋のことで、彼は寛いで横たわり、妻の暗示によって眠りに入った後、静かに患者の治療法を語り始めるのだが、リーディングとはその言葉を書きとめたものなのである。彼はこれにより多くの難病患者を救ったのだ。
 確かに彼は故郷のケンタキー州ホプキンスビルで6年間学校に通っただけの学歴しかない。しかし
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