第四章 再会
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信じる。万が一の場合、しばらくの間、君の言うように曖昧な証言をしよう。しかし、何故12月20日なんだ。」
保科香子は一瞬うろたえたが、咄嗟に答えた。
「母が入院しているの。末期癌よ。余命一月と医師に言われている。死に水をとってあげたいの。」
石井は一瞬判断に迷った。嘘が半分、真実が半分といった按配だ。事実、香子の母が癌であること、そして入院していることも事実だった。ただし、それが二月ヶ間自首を伸ばす理由ではなかったのである。
石井は立ち上がりかけたが、座りなおし、
「おい、磯田さん。12月20日まで待て。」
とテーブルの下に向かって言い、立ち上がると、香子に背を向けて歩き出した。
一方、ホテルの駐車場の車の中で一部始終を聞いていた磯田は、「けっ、格好つけやがって、甘ちゃん野郎が。来るわけねんだろう。」と呟き、ふて腐れてレシーバーを耳から外した。レコーダーのスイッチを切り、車から降り立った。盗聴器を回収するためだ。
(二)
少女は恐怖に顔を引き攣らせ悲鳴を上げたのだが、くぐもったその叫び声は誰にも聞こえない。少女の口にはタオルが押し込められ、手足はナイロンの細い紐で縛られベッドの四隅に固定されていた。少年は下半身を少女に突き立てているが、その両手は少女の首を締め付けている。
首を絞められ、少女の意識は遠のき、死の恐怖も、快楽も、まして魂さえ脳裏から離れてしまっているようだ。尚も少年は腰を律動させ、最後の瞬間を迎えようとしている。次の瞬間、獣の咆哮のごとき声をあげ、少年は果てた。
ドンドンという扉を叩く音に、少年はぐったりとした体をようやく起し、ゆっくりと振り返った。充血した目には尋常でない光を宿している。すっきりとしたそのマスクは美少年の部類に属す。その顔からは想像も出来ない野太い怒声が響く。
「邪魔するな。邪魔したら貴様らも殺してやる。この女のようにぶっ殺してやる。」
ズドンという一際大きな音と共に、扉が蹴破られ、それが上の蝶番ひとつでぶら下がった。二人の屈強そうな男が入ってきた。少年は少女の体から起き上がり、二人の男に挑むような視線を向け半身に構えた。一人の男が冷ややかな声で言う。
「渥美さんは死んだようですね。」
少年は黙ったままだ。
「あれほど仲良く暮らしていたじゃありませんか。この半年、二人は夫婦のようだった。私達もほっと胸を撫で下ろしていた。」
「黙れ、何が夫婦のようだったって?胸を撫で下ろしたって?貴様らに俺の惨めな気持ちが分かるか。籠の鳥の俺の気持ちなんて分かるわけがない。」
「勿論分かります、でも本来はもっと狭くて汚い場所に押し込められていてわもおかしくないんですよ。それが見なさい。ここには何でも揃っている。プールもジムも映画館も遊技場も、ましてお坊ちゃんの要望通りヘリコプターも買って
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