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予言なんてクソクラエ
第四章 再会
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じゃない。」
「ではどうして。」
「君に忠告をしようと思って。」
「それってどういうこと。」
喜びが一瞬にして不安へと代わり、動揺を隠そうともせず暗く沈んだ瞳を向けた。
「実を言うと、僕はあのホテルから出てくる君を目撃してしまった。こう言えば分かるだろう。警察は君を追っている。君に辿りつくのにそう時間はかからないだろう。まして僕の友人が君に辿りついて、君の写真まで撮っている。」
「その方が、ここを教えたと言うの。」
心なしか声が震えている。
「そういうことだ。」
重苦しい沈黙が二人を包んだ。肩を落とし、一点を見詰める香子の固く組まれた両手は震え、その震えを抑えるために手を組んでいるようだが、力を込めるたびに震えは大きくなった。石井がようやく口を開いた。
「何故あんなことをした。」
予想した通り沈黙がその答だ。石井は俯く香子を見詰めた。香子が顔をあげ、二人は見つめあう。その唇が震えている。
「強請られていたの。体を要求されたわ。だから眠り薬をお酒に入れたの。量が多すぎたって・・・。まさか死ぬなんて思ってもみなかった。」
「量が多すぎたって、誰が言った?」
その答えにはだんまりを決め込むつもりらしい。固く口を引き結んでいる。だが、誰かがそう言ったことは確かなようだ。
「自首しよう。それしかない。」
「そんなこと出来ないわ。」と言うと、両手で顔を覆った。肩が震えている。その頼りなげな肩を見ているうちに、急に愛おしさが込み上げてきた。常に校内でこの女の姿を追い求め、見出だせば狂おしい思いを抱いた中学高校時代。その思いが甦った。
 この女を守ってやりたいと心底思った。しかし、そんなことは不可能だ。殺された政治家秘書から安東代議士、そして悟道会教祖の杉田啓次郎の妾へと警察は辿りつくだろう。その時、石井が警察に嘘の証言をすることなど出来るはずがない。
 そう思った瞬間、思いは一緒だったのだろう、香子の顔が救いを求めて石井を凝視した。辺りを憚って囁くように言った。
「石井くん、お願い。嘘の証言をして、私じゃないって。ホテルから出てきたのは私じゃないって証言して、お願い。」
「それは出来ない相談だ。こうみえても僕は元刑事だ。」
石井の冷徹な視線に一瞬ひるんだが、再び何かを思いついた。涙で潤んだ瞳が必死さできらきらと輝いた。
「いずれ自首するわ。今日は10月20日、そう、12月20日には自首する。お願い、二ヶ月ほど待って欲しいの。」
石井はじっとその瞳を見詰めた。その瞳に嘘がないか見極めようとした。人は切羽詰まると嘘をつく。嘘を見抜くのが刑事の仕事だった。石井は不思議と嘘を見破る能力を持ち合わせていた。その瞳に嘘はないように思えた。声を殺して囁いた。
「分かった。12月20日、再びここで会おう。時間は今日と同じ午前10時。僕は君を
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