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予言なんてクソクラエ
第二章 予言
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ぬけの殻だった。昨夜、彼女は一人でワインのボトルを空けたはずだ。タフな女だと感嘆する間もなく、大変な遅刻だと気付いた。水曜の定例ミーティング、9時始まりで既に9時。

 あたふたと事務所に駆け込むと、磯田の冷たい視線にぶちあたった。ミーティングといっても抱える仕事の進捗を雑談まじりに語るだけだ。経理の佐々木など他人の私生活を覗き見る好奇心を神妙な顔の下に隠している。佐々木がメモをとる手を休め振り返る。
「真治さん、大事なミーティングですよ。寝坊なんて言うんじゃないでしょうね。」
「すまん、その寝坊だ。このとおり、鬚も剃ってない。」
「まあ。」
佐々木の取澄ました呆れ顔を、ちらりと見て苦笑いしながら龍二が言った。
「例の野暮用だな。結局、最後までつきあったのか。」
叔父の龍二は、昨夜、石井が三枝と会うことも、また三枝が石井に夢中であることも知っていた。石井は一瞬躊躇したが、隠してもしかたがないと諦めて答えた。
「まあ、そういうことです。」
 磯田は二人の顔を覗いながら、何が起こったか推し量ろうとしている。以前龍二から聞いた「三枝さんは真治に夢中みたいだ。」という言葉をふと思いだした。まさか相手は三枝ではないかと、緊張気味に石井の様子を覗う。と、思わず、探りを入れるどころか、そのまんまの言葉が吐いて出た。
「まさか、三枝さんと会っていたんじゃないでしょうね。」
佐々木が好奇心丸出しで石井の顔を覗き込む。石井は言葉に詰まったが、龍二が助け船を出した。
「三枝さんならいいが、例の渋谷のご令嬢だ。あの婆さんは朝まで飲んでいてもけろってしている。」
磯田の顔が安堵に緩み、佐々木の好奇心が一挙に萎んだ。渋谷のご令嬢は、やはり石井のファンなのだが、常にストーカー被害を訴えてくる多少ボケの入った老女だ。石井も龍二も何度か朝まで付き合わされたことがある。
 
 それから二週間後のことだ。尾行を終え、満足の行く結果にほくそえみながら帰路についた。その時携帯が鳴った。夜の9時を過ぎている。珍しく磯田からの電話だ。
「ちょっと、東陽町に来てもらえませんか。」
石井は、磯田の妙にご機嫌な声を、いぶかしく思いながら「えっ、東陽町ですか、うーん・・」と生返事を返した。すると磯田が続けた。
「石井さんに見てもらいたい人がいます。もしかしたら、石井さんの初恋の人に似ていたという、例の行徳のホテルから出てきた女かもしれませんよ。」
いっひっひ、と言う磯田のひそやかな笑いに、かっとしたが、石井は溜息をついて怒りを静めると聞いた。
「東陽町の何処ですか?」

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