第二章 予言
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ちていた。石井は陸上で鍛えたというカモシカのようなその脚を眩しげに見ていた。突然、振り向いて言う。
「最近の君の行動は理解を超えるわ。前の君とは全然別人だもの。」
石井は押し黙ったままだ。二人が男女の関係になってまだ一月にもなっていなかった。その一月の間に石井の周辺に激震が走ったのだ。勤務する池袋署の副所長の自殺、尊敬する先輩の変節、石井は酒に走るしかなかったのだ。
彼女は石井を見詰めていた。石井の視界には彼女の赤いウオーキングシューズがぼんやりと映っている。目を合わせるのが面倒だった。ため息をつき、顔を上げた。案の定、彼女の冷たい視線が石井の目を貫いた。
「あの情報を流したのは、石井君じゃないの?週間話題に意味深な記事が出ていたわ。この頃の貴方を見ていると、そうだとしても不思議じゃない。ねえ、どうなの。もしそうなら、私、貴方を見損なっていたかもしれない。」
石井が組織を裏切る行為に及んだのは組織そのものに矛盾を孕んでいるとつくづく感じたからで、真実をマスコミに流すしかないという切羽詰った思いからだった。彼女がどこまで自分の側にいてくれるか測りかねていた。しかしこの時、石井は彼女が組織の側に立っているのを、ただ酒に濁った空ろな目で眺めていただけだ。
彼女は今もあの警視庁のビルの中にいるかもしれない。今日、もしかしたら会えるかもしれないという淡い期待を抱いて来たのだ。榊原に彼女のことを聞きたかったが、とうとう口にだせずに別れてしまった。石井は深い溜息をつくと公園の出口へと向かった。
(二)
三枝節子と待ち合わせたのは新宿プラザホテルのレストランで、ここで会うのは二人にとって二度目のことである。三枝は、二ヶ月ほど前ふらりと事務所を訪れ仕事を依頼した。仕事の内容はストーカー行為の証拠を揃え、相手と交渉することだった。
そのストーカーの社会的地位を考えれば当然交渉に乗ってくると思えた。石井は相手に証拠を突きつけ、社会的制裁を匂わせつつストーカー行為を止めることに同意させたのだが、その後しばらくして、三枝は差出人不明の手紙を受け取った。
三枝は、電話でその手紙が例のストーカーからではないかと不安を滲ませ、石井に話を聞いてほしいと言ってきたのだ。それが一月前のことだ。食事をしながら手紙を読ませてもらったが、そこには8月中旬にミラノで列車事故が起こり、死者は100名を越えるとたった一行書かれているだけだった。
本人は深刻な顔で悩んでいる風を装っていたが、手紙の内容が自分に関わりがなく、その日はたわいないお喋りに終始し、最後に石井はプライベートの携帯の番号を教えるはめになったのだが、今日、事務所に戻ろうとした矢先、その携帯が鳴ったのだ。
二通目の手紙が舞い込んだと言う。石井はため息をつき新宿に向かった。三枝は独身の勤務
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