第一章 目撃
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驚きました。別れた奥さんの悪口を並びたてて、大変でした。」
「ああ、ワシも聞かされたよ。ワシは2時間、君が一時間。ワシの方が割を食った。恐らくワシが婆さんのガス抜きしたから、君は短くて済んだんだ。」
「あのマンションには、何度か泊まったことがありましたが、嫁姑の仲は悪くないと思っていましたけど。」
「見た目じゃ分からん。坂本も陰では苦労していたんだ。離婚、絶望、そして…。奴の気持ちがようやく分かった気がした。」
榊原は、しみじみと坂本警部のヤクザな顔を思い出していた。誰にもそれぞれ家庭の事情ってやつがある。憮然と宙を睨んでいた榊原が、ふと視線を戻し口を開いた。
「そういえば、お前、今、何をやっているんだ。」
「お恥ずかしい話ですが、探偵をやってます。」
「恥ずかしがることはない。探偵だって立派な職業だ。実入りも良さそうだし。何かあったら協力するぞ、何時でも言ってこい。」
「有難うございます。榊原さんからそのように言って頂くと本当に心強いです。ところで、その後、例の連中が逮捕されましたが、やはり榊原さんが関わったのですか。」
「ああ、関わった。君の証言のおかげだ、感謝している。」
「いえ、とんでもありません。実を言うと、榊原さんに何を喋ったかまったく覚えていないんです。でも、聞き上手の口車に乗せられたか、或いは酔いも手伝って、私も洗いざらい喋ったみたいですね。」
「何も覚えていないのか。」
「ええ、まったく。」
「まあ、それはそれでいい。さっぱり忘れろ。こっちは緘口令がひかれてるから何も喋れん。分かるだろ。俺の言う意味が。」
「ええ、分かります。よくあることでしょう。自分達に都合の悪いことは捜査上の秘密とか何とか。」
「そういうこった。」
榊原は順次、目、口、そして耳を両手で塞いで、泣き顔を作ってみせた。石井は吹き出しそうになるのをようやく堪えた。榊原が真顔に戻り、言った。
「それより、よく立ち直ったな、もう駄目じゃないかと思っていた。」
「ええ、兄貴に精神病院にぶち込まれまして、漸く社会復帰しました。」
「それじゃあ、あんまり酒は飲まんのか。」
「いいえ、そんなことはありません。普通に飲んでます。それより部署とか、お変わりありませんか?」
「ああ、部署は相変わらずだ。携帯番号もそのまま変わらん。警部補もそのまんま。それより飲もう。坂本を酒のつまみに飲もうじゃないか。」
「そうしましょう。あのカーボーイ野郎に乾杯しましょう。」
石井と榊原はその晩酔いつぶれた。坂本警部が一緒に飲んでいるような気がして、なかなか席を立てなかったのだ。
(三)
翌日、石井は二日酔いで事務所に出勤した。叔父が経営する探偵事務所は、四谷駅から歩いて2分、外堀通りを渡って路地に入ったところだ。1階は叔母の経営する美容院、2階
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