第三十二話 図書館その二
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「あの博士よね」
「あっ、大学の悪魔博士ね」
「あの人ね」
「あの人お幾つなのかしら」
美紀も博士のことは知っているが首を傾げさせて言うのだった。
「噂では百五十っていうけれど」
「ううん、実際のところはね」
「ちょっと分からないわね」
このことは二人も疑問に思っているのでこう言う。二人の予想ではその百五十すら超えているというのが予想である。
「色々博士号も持っておられるし」
「文系だけじゃなくて理系もね」
「仙人って噂あるわよね」
美紀はこのことも言う。
「確か」
「ええ、それはね」
「私達も聞いてるわ」
「本当かしら」
「本当じゃないの?」
「あの人はね」
「あの人が一番の謎じゃないの?」
美紀は首を傾げさせながらこうまで言った。
「この学園の中で」
「そうかもね」
二人も否定出来なかった、そして。
そうした話をしてそのうえでだった、美紀は愛実と聖花に対してあらためてこんなことを言ったのであった。
「今私達読書感想文の本を探しにここに来てるじゃない」
「まだ見付からないわね、その本」
「具体的に何を読むのかは」
「妖怪の本にしない?」
ここでこう提案した美紀だった。
「そうしない?」
「妖怪の本ねえ」
「そういう本ね」
「そう、例えば雨月物語?」
美紀は上田秋成のこの本を出した。
「それとか?」
「雨月物語っていうとあれよね」
聖花はこの書のことを聞くとこのタイトルを話に出した。
「吉備津の釜よね」
「他にもあるわよね」
「何作か集めた作品だからね」
「それ読もうかしら」
「古典だけれどいいの?」
聖花は真面目な顔で美紀に問い返した。
「雨月物語って」
「そうね、そうだったわ」
「読みにくいわよ、文章が」
「そうよね、読書感想以前に古典の勉強になるわね」
「石川惇が現代語訳してるけれどそちらにする?」
「あっ、現代語訳あるの」
美紀は聖花の今の言葉に顔を向けて問うた。
「そうなの」
「あるの、じゃあそれにする?」
「そうね、現代語訳があるのならね」
「石川惇は昭和の人だから文章もまだ読みやすいから」
多少癖があると言われている、太宰治等と同じ無頼派の作家とされるがその太宰の文章よりも癖があると言われているのだ。
「そちらにする?」
「そうしようかしら」
美紀は雨月物語、石川惇訳に傾いた。
「この図書館にもあるわよね」
「あるわ、文庫でちくま書房からも出てるわ」
「詳しいわね」
「愛実ちゃんのお姉ちゃんが持ってるから」
「えっ、そうだったの」
今度は愛実が声を挙げた。今はじめて聞いたといった顔で目を丸くさせての言葉だった。
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