『東方晟成』 A
[3/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ゃ、じゃあ良平じいちゃんッ! 杖直しとくっスから、三日後にまた取りにきてくれなッ! 島津のおばさんもタッパー今度返しに行くからッ!」
「そうかい……それじゃあ頼むよ」
「また何か作ったらお裾分け持ってくるからね」
そう言うと二人は帰っていった。帰りの際、「うちの孫が…」「うちの息子が…」と二人が会話していたのだが、晟成は聞かなかったことにした。
「………ははは……さて、『修理』にとりかかるか…」
二人を見送ると、晟成は受け取った杖とタッパーを持って家の中に戻った。
東方晟成は、父親と母親の三人家族で暮らしていた。『暮らしていた』と過去形なのは、現在東方晟成は一人で暮らしているからである。
彼の家は代々「修理屋」を営んでおり、晟成は四代目であった。彼の父『東方貞成』は国宝級の宝物の修理に携わったこともある一流の職人であった。母『東方智子』は家庭的で温和な優しい母親で、東方家は近所でも有名な仲の良い家族であった。
そんな幸せな東方家に不幸が訪れたのは、晟成が4歳のころだ。
季節は夏。晟成の母『東方智子』が急死したのだ。原因は不明…謎の高熱を発し、体の免疫力がどんどん低下していく奇病にかかったのだ。突然の母の死に、まだ幼い晟成は何が起こったのか理解できなかった。
それから暫くして、季節は冬。今度は晟成が母親と同じ奇病にかかった。当時、仙台市は観測史上最高の大雪に襲われた。雪のせいか電波が悪く電話が繋がらないため、父親は大雪の中、晟成をかついで病院に向かった。
しかし、それが不運であった。仙台市を襲った大雪は、容赦なく父『東方貞成』に極寒の冷気をあびせ、体温を奪っていった。あまりの寒さに手足は麻痺し、さらに積雪が疲労を増大させ、歩くことすら困難であった。しかもその冷気が晟成の高熱を悪化させ、文字通り晟成は「死の淵」をさ迷った。
それでも、父『東方貞成』はそんな猛吹雪の中を、進んでいった。息子を助けるために、愛する家族を今度こそ救うために、文字通り「命をかけて」……
その後、病院につくと東方親子はすぐに治療をうけた。医師達の懸命な努力によって、晟成は一命をとりとめた。しかし、父『東方貞成』はも猛吹雪のせいで手足が腐り、そこから菌が入り込んで病死した。
晟成は4歳で天涯孤独となった。
「よ〜し、じゃあ始めるか…」
作業部屋と書かれた室内で、晟成は眼前に広がる無数の破損物に対峙していた。それらは全て、晟成が依頼された依頼品であった。中には今日頼まれた「真っ二つにへし折れた杖」もあった。
依頼品はどれもこれも酷い有り様で、とても修理できるとは思えない状態だった。
しかし、こんなものは晟成にとっては朝飯前だ
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ