第肆話 《壊すモノ》
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一つだけ問うた。
お前の名前は? と。
男はぶっきらぼうに、簡潔に答えた。
「我が名はキシマ。それ以上の名など持たぬ」
そしてキシマは歩みを止めず、森の奥深くに消えていった。
「…………キシマ、か」
一人立ち尽くすシキは呟いて、そしてふーっと長い長い溜息を吐き出し、自分の手に目を落とした。
○●◎
「やぁ、帰って……おや、どうしたのかね? その右目は」
「…………」
劇役者風の男の横をすり抜け、追求を逃れようとしたキシマだったが、劇役者風の男の腕がそれを阻んだ。
「私は『どうしたのかね?』と訊いたはずだが?」
「抉られただけだ」
端的にキシマは答える。
「どのタイミングで? 私はずっと見ていたが、そんな暇なかったはず……」
「あの小僧と拳と斬撃の押収をしていた際だ。情けない話だが、俺も奴との戦いに些かの興奮を覚えていたらしい。気付いたのは別れを告げた後だ」
キシマの右目は完全に空洞であり、そこには何も無かった。
「そうか……して、その傷。どうするかね?」
「このままで良い。この傷が丁度良い枷になりそうだ」
仏頂面に近い無表情で、キシマは「もういいか?」と訊く。
劇役者風の男も「充分だ」と頷いた。
そして思い出し、キシマに質問した。
「ああ、そうだった。君の目から見て、彼はどうだったかね?」
聞いて、キシマはふん、と鼻を鳴らした。
「最悪だ」
そう一言だけ、言った。
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