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銀河英雄伝説<軍務省中心>短編集
夏の日暮れの心象風景
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「お待ちしておりました、閣下」
軍服姿のシュルツ中佐が、静かに歩み寄る。その顔には穏やかな笑みがあった。
「シュルツ、これはどういうことだ」
対照的に硬い表情をした上官に、シュルツは笑みを絶やさず答える。
「バーベキューといえば夏の風物詩ですよ、閣下」
故意になのか、いささか的を外した回答に、オーベルシュタインは再び口を開く。
「それはそうだが……」
「皆、羽目を外したかったということです」
てきぱきと会場準備の指示を出していたフェルナーが、横から口を挟んだ。
「忘年会やら何やら色々企画したところで、閣下は金を出しても顔は出されないでしょう?だから皆、一度はこうして騒ぎたかったんですよ、閣下とね」
困惑する上官へ噛んで含めるように言って、フェルナーはいたずらに成功した子どものような表情を作った。
肉の焼ける匂いが立ち込めて、一同の手元にビールが行き渡り始める。仮設置された椅子を勧められたオーベルシュタインは、何とも言えず面映そうに笑っていたが、やがて思い出したように、手元に下げた鞄をフェルナーへと差し出した。
「何ですか?」
ボストンバッグほどの大きさのある鞄のファスナーを開けると、中には緩衝材と断熱材が貼られている。肝心の中身は大きめの保冷バッグであったため、フェルナーは首を傾げながらもう一度ファスナーを開けた。
「閣下!」
シュルツと、焼けた野菜を持ってきたグスマンも、唖然として声が出なかった。二重に梱包されたその荷物の正体は、貴族たちから人気の高いオーディン産ビールであった。
一呼吸置いてから、各々が「おお!」と歓声を上げる。続いて、計画の失敗に気づいた彼らは、気恥ずかしそうに笑い声を上げた。
オーベルシュタインから差し入れられた高級ビールをグスマンが紹介すると、公園は男たちの更なる歓声で満たされた。第一回銀河帝国軍務省夏祭りの開会である。
遅れて到着したヴェストファルを交えて全省員が乾杯(プロージット)を叫ぶと、彼らの祭りは、軍務省内では到底見られない活気とともに始まった。

「やっぱりなぁ」
常と変わらぬポーカーフェイスで、ビールを手に部下たちと会話するオーベルシュタインを眺めながら、フェルナーは小さく息を吐いた。
「どうなさったんです、准将?」
上官へせっせと料理を運んでいたシュルツだったが、その上官が話に夢中になって食べる方へ回らなくなったために、自分もフェルナーの横へ座って肉をつまみ始めた。
「いやさあ、まんまと騙されていたのは、俺たちの方だったってことだよな」
フェルナーの小さな嘆きに、シュルツも声を殺して笑った。
「閣下は恐らく、この計画を察していらっしゃったのでしょうね。ですが、准将がここまでお膳立てしなければ、いつもの通りビールだけを小官に託されたはずです。閣下のあんな笑顔を見ること
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