夏の日暮れの心象風景
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の暴漢」であると思わせるのが目的だったため、殺気立った態度に疑問も覚えなかった。上官が襲われている時に、叫ぶことしかできなかった己が、心底情けなかった。おそらく、ヴェストファルも同じ気持ちに違いない。
「この後はどうしますか、准将」
予定外の事態が生じているのだ。暴漢たちの身元も調査せねばならない。ヴェストファルとしては、当然計画の中止を言い渡されると思っていた。
「卿や俺たちと同様、省員たちも訓練として既に避難を始めている。いずれにしろ避難する必要はあるし、この際、計画は続行だ」
ヴェストファルは一瞬目を見開いたが、すぐに諾と答えて、護衛対象へと目を向けた。小声での会話を終えると、フェルナーは上官の肩を抱くような位置へ戻った。ヴェストファルは隊員を率いて、退路の確保へと走り出した。
「閣下。当初予定した避難場所では、十分な安全確保とはならないと判断いたします。小官もお供いたしますので、ヴェストファルへ続いて下さい」
オーベルシュタインは無言で肯くと、大き目の黒鞄を携えて促された方向へと歩き出した。
「シュルツの姿が見えぬが、無事だろうか」
歩きながら問う。本来なら、ヴェストファルとともに真っ先に駆けつけるはずであるが、おそらく彼も、計画通りの行動を取っているのだろう。
「シュルツ中佐には今回、急な計画変更が生じた際の伝達を任せております。おそらく小官が命じる前に動いているのでしょう」
そうか、とオーベルシュタインは一言答えて、その後は自身の避難に集中した。ヴェストファルから、「閣下ご自身の御身を優先して下さい」と窘められたためもあった。
屋上へリポートへ誘導され、オーベルシュタインは既に待機していたヘリを眺めた。
「第二避難地か。装甲擲弾兵部隊の演習場だったな」
「御意。万全を期したいと存じますので、ご承知下さい」
普通、侵入したテロリストが伏兵を置く場合、暗殺対象者が階下へ降りてくることを想定して潜伏する。出入り口に近ければ近いほど、テロリスト自身も逃げ出しやすいという心理が働くことも要因のひとつである。その意表をつく避難経路が、フェルナーの設定する第二避難地であった。テロ対象となる要人のみが、屋上のヘリポートからヘリで脱出するというものである。どちらの方法を用いるかは、フェルナー以下幾人かの担当者たちの判断に一任されていた。
「まだテロリストが潜んでいるかもしれません。お乗り下さい」
オーベルシュタインを奥の座席へ促し、自分も乗り込みながら、フェルナーは用心深く外を窺った。
「お気をつけて!」
ヴェストファルが短く叫んで敬礼する。
「後を頼んだぞ、ヴェストファル!」
フェルナーも表情を引き締めて、敬礼を返した。操縦士の合図で浮上を始めたヘリの中で、オーベルシュタインが静かに息を吐いた。冷静さを微
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