夏の日暮れの心象風景
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左様です、閣下。対テロ訓練と避難訓練の要素を盛り込んであります」
いたって真剣な表情で、提出者……フェルナー准将は上官への裁可を求めた。
「諸訓練は年間計画に含まれており、確か次の訓練は10月、フェザーンで実施予定のはずだ。担当者である卿が知らぬはずはあるまい」
そう言いながら、しかし書類を突っ返そうとせず、オーベルシュタインは部下の言葉を待った。無意味な訓練を提案して予算を無駄遣いするほど、この部下は愚かではないはずだった。
「はい、無論記憶しております。ですが、軍務省は軍政の要。大本営移転を控えて慌しいこの時期を狙ってのテロということも、十分にあり得ます。省員たちの気を引き締める意味でも、この時期の訓練は有意義かと存じます」
隙のない笑顔の部下を一瞥する。
「……そうか」
オーベルシュタインは顎に掌を当てて5秒ほど考えると、無駄のない仕草でその手をペンへと伸ばした。
「目的と概要は分かった。憲兵本部に連絡ののち、全省員へ告知すること」
そう言って流れるようにサインをし、書類を部下へと返す。フェルナーはあまりにもあっさりと許可が出たことに、かえって不安を覚えた。どう考えてもこじつけの理由であり、正直なところ、訓練のための時間を割くよりは、迅速に引越し準備を済ませてオーディンを出立するほうが有意義であると、フェルナー自身も考えているからだ。
「詳細もご覧になりますか?」
だからこそ、本来の目的からすると余計とも言える一言を、フェルナーは付け加えた。しかし上官は、音もなくかぶりを振った。
「無用だ。私がそこまで目を通していては、卿に権限を与えた意味がない。卿が必要と判断して計画したのなら、私がこれ以上口出しすべきではないだろう」
早くも次の書類を手に取りながら、冷徹無比の軍務尚書は、最大級の信頼の言葉を無意識のうちに部下へと向けていた。
「それでも、嫌われ者だと思っていらっしゃるんでしょうね」
書類へと目を落としている上官を眺めながら、フェルナーは嬉しそうに翡翠の目を光らせつつも、内心でそう呟いた。
ドーンと、地鳴りのような音が響いた。予め告知されていた防災訓練の時刻よりも10分ほど早い時間であるが、省内訓練開始時には、いつも空砲を2発撃つ決まりになっているため、今のそれも訓練開始の合図に違いなかった。執務室で通常業務に従事していたオーベルシュタインとフェルナーは、各々ペンを置くと立ち上がった。そこへ2発目の空砲が……
「閣下!」
バリバリという何かが壊れる音を伴い、まもなくしてガーンと金属同士がぶつかる音へと続き、その音は空砲というレベルを優に超えていた。
「閣下、隣接する浄水施設が半壊しています!」
施設に近い位置に立っていたオーベルシュタインを庇うように、フェルナーは上官の背後へ回ると出口へと促す。警報装
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