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渦巻く滄海 紅き空 【上】
五十四 窮地
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意を瞳に宿し、大蛇丸は声を荒げた。
「術も発動しない……。なんだ、何をしたァ!?」

狼狽する。動揺し、殺気を発する大蛇丸に、ヒルゼンは口許に笑みを浮かべた。
宣言した通り、弟子へ最後の訓えを与える。

「【屍鬼封尽】。この封印術は術の効力と引き換えに、死神に己の魂を引き渡す…命を代償とする術じゃ。対象の魂を封印したと同時に、わしの魂も喰われる…そういう契約じゃ」
「こんな術をどこで…ッ、」
「言ったじゃろう? 二つ名が伊達ではない事、その身を以って知るがよい、とな」

木ノ葉に存在する全ての術を使いこなす『プロフェッサー』または『忍の神』と謳われた、歴代でも最強とされる火影。その二つ名に恥じぬ知識と力を兼ね備えたヒルゼンは、かつての弟子の魂をしっかと捉えていた。
全身を刃物で突き刺されているにも構わず、老齢にも拘らず、彼の力は揺るぎない。

「これからお前の身体から魂を引き摺り出し、封印する」

得体の知れぬ手に腹の内を弄られているかのような感覚を覚える。嫌悪と恐怖を同時に感じ、大蛇丸は身を捩った。
しかしやはり身体はまるで石と化したかのように、微塵も動かない。

大蛇丸はヒルゼンの背後に目をやった。ぞくりと寒気を覚える。
其処には恐ろしい形相をしたナニカがいた。


底無しの昏い瞳をぎょろりと動かす。それでいて白い髪を乱れさせ、鬼の形相でにたりと笑う。
その異形の存在に、大蛇丸は思わず息を呑んだ。
「これが……死神!?」



大蛇丸から何かを引き摺り出そうとしている異形の腕。ヒルゼンの腹を突き破っているソレは大蛇丸の中から白い塊――魂というべきものを引き摺り出そうとしていた。

術の効力と引き換えに己の魂を死神に引き渡す、命を代償とする封印術。その術を契約した者のみが視えるという死神の姿は、魂を半分ほど引き抜かれた大蛇丸の目にも見て取れた。

死神に魂を抜かれるという未知の体験に、大蛇丸は内心慄然としていた。だがその恐怖を押し殺し、彼は憎悪を湛えた瞳で元師であった火影を見遣る。
全身を刀で突き刺されたヒルゼンもまた、大蛇丸を射抜くような眼光で見据えている。
だが大蛇丸と違い彼の瞳には、確かに不肖の弟子に対する慈愛があった。やわらかく微笑む。


「共に逝こう、大蛇丸……」
穏やかな死の宣告がその場に響き渡った。


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