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渦巻く滄海 紅き空 【上】
五十四 窮地
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片足に痛みが奔った。「チッ」と舌打ちする。
それを好機と見て取って、如意棒から閻魔の腕が伸びた。
〈もらったあッ!〉

怒涛の攻撃。足の捻挫で避けるのは不可能。瞬時に判断した大蛇丸が印を結んだ。指を鋭く切る。
「まだよ!!」


刹那、ヒルゼンは無数の刃物に突き刺された。


















その場に満ちた威圧感は、今までの比ではなかった。
威厳に満ち、権威を背負った彼女は冷やかに目を細めた。

《ふん…》
小さく鼻を鳴らす。それだけの所作でガマブン太の巨躯がビクリと身じろいだ。
「…ふ、封印が解けたんか!?」
以前九尾と対峙した事のあるガマブン太は、昔と変わらぬ威圧感に畏縮した。


そこにいるだけで見る者全てを竦ませる圧倒的存在感。彼女の一言一言が緊張感に溢れた空気を震わせる。


《久しぶりだな、クソ蛙》
「な、なんじゃてえ!?」

いきなり辛辣な言葉を浴びせられ、ガマブン太は食ってかかった。
それはかなりどすの利いた声だったが、頭上の存在はやはり凛と佇んだまま動かない。平然と目線だけを眼下の森に向ける。
《子の命を救った恩人を見殺しにする奴なんざ、クソ蛙で十分だ》

視線を追い掛けたガマブン太が目を見開く。安全な場所にいるガマ竜の姿が視界に入った。
我が子を認めた途端、激情に駆られていた頭が冷静を取り戻す。

「なんでお前がこんな所におるんじゃ、ガマ竜!?」
「あ、父ちゃん〜」

状況に反してのんびりした声。この緊迫めいた状態が理解していないのか、「遊びに来てたんだよ〜。その子がよくお菓子をくれる子なんだよ〜」と呑気に話す息子に、ガマブン太は頭を抱えた。

最近ガマ竜がよく口寄せされている事は知っていた。菓子を手に戻ってくる弟に、兄のガマ吉が羨んでいたのは記憶に新しい。

普段息子が世話になってる子どもが波風ナルだと察したガマブン太は、頭上の存在の口振りから、今も一尾の脅威から救ってくれたのだと理解した。我が子の情けなさに嘆息する。

「お前に言われなくとも、仁義きっちり見せたるわい!」
得物に手をかける。
ドスを構え、ガマブン太は言い放った。鈍い光を放つ刀身に、ナルの紅い瞳が映り込む。


思い通りに動き始めた足下の蛙に、波風ナル…否、九尾『九喇嘛』はほくそ笑んだ。

中忍本試験前、自身の前に現れたうずまきナルト。彼の頼みに渋々応じたものの、波風ナルは一向に己の力を頼りにしなかった。崖に突き落とされた際、老いた蛙を助ける為に近づいてきたが、それだけ。
あの時以降、彼女は自分の力のみで闘ってきた。

あの日向ネジとの試合時も。我愛羅との戦闘も。そして、一尾『守鶴』と対峙した今も。

何時まで経って
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