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コシ=ファン=トゥッテ
第二幕その三
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第二幕その三

「あの時だって接吻を求めてきたし」
「そんな人達なのよ」
(そんなの常識でしょうに)
 また心の中で呟くデスピーナだった。接吻なぞ彼女にとっては普通である。
(まあいいわ)
「あれは薬のせいですよ」
 心の中の言葉は隠し続けまた話す。
「それで目が回って動転してのことですよ」
「だからなのね」
「あの時は」
「そうです」
 強引にそういうことにしてしまった。
「慎み深く行儀がよく控えめで優しくて」
「よい方なのね」
「本当は」
「ですから少しでもお話をされることです」
(それで話は終わりよ)
 心の中の言葉は相変わらず本音の言葉だった。
(もうそれでね)
「女は十五になれば世の中のことは一通り知らないといけませんよ」
「一通りなのね」
「そうです。悪魔の尻尾は何処にあるのか」
 フィオルディリージに対して述べる。
「善いことと悪いことの区別は何か。恋人達をくすぐる手管も知らなくては」
「いけないの?」
「そうです。作り笑いに嘘泣きができないと」
 やはり彼女の得意なのはこれだった。
「言い訳も上手くできないと。一瞬のうちに百人の男に気を配り」
「百人!?」
「それはまた凄いわね」
「目配り一つで千人の男に意を伝え美男でも醜男でも全ての男に気を持たせ」
 つまり彼女の付き合った男には色々いるということだ。
「慌てずに自分を隠して赤くならずに嘘をつけないと」
「駄目だというの?」
「女はそうでないと」
「玉座の上の先の陛下の如く」
 マリア=テレジアのことである。ハプスブルク家中興の祖として知られ十六人の子を持つ偉大な母親でもあった。神聖ローマ帝国の実際の主だったのだ。
「男性を導かなければ」
「陛下の如く」
「あのように」
「そうです。先の陛下はお見事でした」
 彼女の夫フランツ=シュテファンは確かに神聖ローマ帝国皇帝だったが実際は妻が国内及び国外の政治を行っていた。美男子でもあり他の女性に気を向けることもあったが常に妻にそのことを察知されてそのうえで知らないうちに浮気を防がれ続けていたのだ。
「あのようにです」
「そうね。陛下のようになら」
「私達も」
「流石に陛下の御名前を出すと効果抜群ね」
 これまたかなりの論理のすり替えだったが二人を乗せることはできた。
(さて、後はかなり楽ね)
「ではお嬢様方」
 ここまで話したうえでにこりと笑って姉妹に告げた。
「私はこれで。洗濯をしてきますね」
「ええ、御願いね」
「頼んだわ」
「はい、それでは」
 一礼してから去るメイドを見送ってから。二人はまた顔を見合わせて話すのだった。
「どう思うの?貴女は」
「デスピーナはね」
 ドラベッラはフィオルディリージの言葉に応えて述べた。

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