十九話
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その存在、アイシャは古ぼけたソファーに座り本に目を落としている。
無表情で感情は読めないがいつもそうであるし、彼女の性格上真面目に読んでいるのだろう。レイフォンからすればかなりの速さでページを捲っている。
賑やかな空間で静かに佇み本を読むそこは、まるで違う世界が開かれているような印象を受ける。表情を変えず動くものといえばページを捲る手だけ。まるで時が止まっている様にさえ思える。
アイシャが読んでいるのは学習の為のものだ。それは自身の知恵と見地を広めるためのものだが、よくそんなものを読もうと思えるとレイフォンは不思議に思う。
娯楽を目的とした本を除けば、レイフォンが読むものなど武芸に関するものでしかない。それも読むというよりは図に目を通す、というレベルに近い。養父もある程度の数本を所有しているが、興味から昔読んだ際、文字しかないそれにレイフォンは頭が痛くなりかけたこともあった。
グレンダンにおいては最低限の知識があれば後は武芸だけで生きていける。そしてレイフォンにはその才があり、頭を使うよりはずっと効率的に、大量にお金を稼げる。
だからこそ勉強が苦手でもはや諦め、武芸一本に考えているレイフォンにとって自分から勉強するアイシャは不思議な存在だ。もっとも、幼馴染であるリーリンも勉強家なのでそんな人間もいる事を理解している。自分と違って凄いなと思う対象であるというだけだ。
斜めで見えづらいが一体何の本なのだろう。疑問に思いタイトルを読むためにレイフォンは視線を強める。すると視線に気づいたのかアイシャがこちらに視線を向ける。
「……何?」
「何読んでるか気になってさ?」
「ここの試合の本。天剣についてとか、今日見た技が何かとかね。気になったからさ」
こちらに見えるように傾けられた表紙を見てレイフォンは納得する。大会があればその度に優勝者は誰かとか、どこの部門の者か等が乗った冊子や雑誌が出ることもある。それのバックナンバーの様だ。
それを見て、そういえば、と思い出す。
「今日の試合どうだった? 確か、余り見たことないんだよね」
今日の試合はリーリンや兄弟と養父だけでなくアイシャも来ていた。
話を聞いたところアイシャはベリツェンで余り試合を見たことがないらしい。年の性なのかも知らないが一回か二回くらいしか見た事がないと聞きグレンダンとの違いに驚いたものだ。
だからこそ少し気になりどうだったかとレイフォンはアイシャに聞く。
「凄かったよ。姿見づらかったけど」
「まあ、それはそうだよね」
動体視力の違う一般人相手にこの質問は間違ったかな、とレイフォンは思う。
「レイフォン直ぐに勝ったし、強いよね。助けてくれた時も一撃だった。この都市の人って皆レイフォンみたいに強いの?
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