第四十話 相性
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ローエングラム公も頬を紅潮させて興奮している。おそらく自らの手でこの戦争を終わらせる、そう思っているのだろう。これなら公も十分に矜持を保つことが出来る。作戦案を採用された事に対して頭領が一礼した。
「ところで一つ教えて欲しい、私ではヤン・ウェンリーに勝てぬか?」
「……」
「卿が私の身代わりになるというのは私では勝てぬと見たからであろう」
問い掛けたローエングラム公よりも、そして問い掛けられた頭領よりも、周囲の俺達の方が緊張しただろう。ローエングラム公の声には楽しそうな響きが、頭領の顔には苦笑が浮かんでいる。大広間の興奮は何時の間にか静まっていた。
「私なりの考えを述べさせていただきます」
「うむ」
「戦略家としての能力は互角、戦術家としても互角でしょう。しかしいささか相性が悪いかと思います」
「相性?」
公が訝しげな声を上げた。皆も腑に落ちないといった表情をしている。
「じゃんけんのような物です。グーはチョキより強いがパーに負ける。しかしそのパーはグーに負けたチョキに負ける。実力は同等、しかし相性で負ける……」
「なるほど、分かるような気もするが……、騙されているような気もするな」
ローエングラム公が今一つ納得しかねるといった表情で苦笑した。俺も今一つよく分からない。頭領の苦笑が更に大きくなった。
「騙してはおりません。……ヤン・ウェンリーの戦術はどちらかといえば受動的なのです。相手の心理を読み、それを利用して勝つ。柔軟防御にこそ彼の真価が有ります」
「ふむ」
公が頷いている。なるほど、良く見ている。時々不思議になる、頭領は本当に海賊なのか? 我々軍人よりも同盟軍の事を知悉している。
「一方ローエングラム公の用兵は能動的です。積極的に、より完璧に勝とうとする。二人が戦うとどうなるか? 公がより完璧に勝とうとするが故にヤン・ウェンリーにその裏をかかれるという事象が起きます。アスターテの最終局面を思い出してください」
「アスターテか……」
ローエングラム公が呟いた。何かを考えている。
「二倍の兵力で分進合撃を図る同盟軍に対しローエングラム公は各個撃破を図りました。ヤン・ウェンリーはそのような積極果敢な指揮官なら、より強く勝利を求める指揮官なら最終局面で紡錘陣形による中央突破を狙うだろうと読んだのです。完璧な勝利を求めようとすれば採るべき手段は限られてきますからね。そしてあの逆撃が起きた……」
「……」
「ローエングラム公がもう少し凡庸か、或いは完璧な勝利を求めなければあの逆撃は無かったと思います。相性が悪いというのはそういう事です」
頭領の言葉にローエングラム公が呻き声を上げた。キルヒアイス提督は顔面が蒼白だ。いや彼だけではない、皆が凍り付いていた。
「ウルヴァシーでの防衛戦では
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