第四十話 相性
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論は出ない。ローエングラム公の安全を危うくすると言う一点を除けば特におかしな作戦では無い。
「では次にローエングラム公を失う危険を軽減する策を説明します」
皆が訝しげな表情をした。俺も多分同様だろう。軽減? 兵力を増やすのか?
「ローエングラム公にはブリュンヒルトを降りて頂きます」
皆が訝しげな表情をした。ブリュンヒルトを降りる?
「どういう事だ? 一体何を言っている」
「ブリュンヒルトには私が乗ります。公はマーナガルムへお移りください」
大広間がざわめいた。皆が興奮して口々に何かを言っている。ルッツが“それは”と言って絶句した。要するに頭領が身代りに立つ、そういう事か。確かに突拍子もない作戦だ……。
「馬鹿な、そのような事は出来ぬ! 卿は私を愚弄するのか、危険を避け安全なところでじっとしていろだと?」
「その通りです」
「そのような事は……」
「甘んじて受けて頂きます」
押し殺したような声だった。ローエングラム公と黒姫の頭領が睨みあっている。大広間の空気がずしっと重くなった。騒ぎは収まり皆、何も言えずにいる。
どのくらい経ったのか……、頭領が一つ息を吐いた。
「公が一個艦隊の司令官に過ぎぬのなら私は何も言いません。ですがそうではない……。先程も言いましたが公に万一の事が有れば帝国は分裂し多くの血が流れるのです……」
「……」
ローエングラム公が唇を噛み締めた。
「それだけではありません。今では二十億のフェザーン人、百三十億の同盟市民に対しても責任を持つ身なのです。今、ローエングラム公以外に宇宙を統一できる人物が居ますか? 彼らに平和をもたらす事の出来る人物が……」
「……」
頭領の声が大広間に流れる、大きな声では無い、静かな声だ。だが声が流れるにつれローエングラム公の顔に苦痛の色が浮かんだ。
「如何なされます? ……宇宙の支配者としての責任を負うか、それとも責任を捨て己が矜持を優先させるか……。お答えください、ローエングラム公」
「……」
公が目を閉じている、微かに震えているようだ。キルヒアイス提督が“ラインハルト様”と声を出した。
「無礼だろう! たかが海賊の分際でローエングラム公に何を言うか!」
「黙りなさい、トゥルナイゼン! 私はローエングラム公にこの銀河の支配者としての覚悟を問うているのです!」
「な、何を」
「止めよ! トゥルナイゼン!」
ローエングラム公がトゥルナイゼンを厳しい声で止めた。愚かな奴、これでは到底役に立つまい……。
「分かった、マーナガルムに移ろう」
絞り出す様な声だ、皆がホッと息を吐くのと頭領が公に対して礼をするのが一緒だった。俺もホッとした、もし公が矜持を守る事を優先すると言ったらどうしただろう……。何処かで公を見限っていたかもしれない。
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