第八十五話 【Fate編】
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用意できたカートリッジは四十三発。心許ないが、それでもこれが用意できたのはかなり心強かった。
イリヤの身の回りの世話と警護をしてくれるホムンクルス…セラとリズの二人と連れ立って冬木の地を目指し、現地入りしたのが一月三十一日。まだ春が来るには遠い冬の日の事だった。
セラとリズの二人を先にアインツベルンの森の奥にある聖杯戦争中の根城として確保してある城へと滞在準備のために先行させた後イリヤは一人冬木の町をフラフラと歩いていた。
いや、霊体化した俺も居るのだから一人と言って良い物かどうか。
彼女はその冬の寒さに温かみの消えた街に、それでも物珍しいのか視線をせわしなく動かしながら歩いていく。
この街に住んで居る住人にしてみれば変わり映えのしないその街並みをイリヤは本当に興味深げに見回している。
そう言えば彼女があの冬の城を出たのはこれが初めてになるのだったか。
「初めての日本の感想はどうだ?」
俺は実体化し、イリヤに問いかける。着ている服装はこの時代よりいくらか後の物だったが、それほど浮く事もあるまい。
ようやく聖杯戦争も始まりの合図を待つばかりとなり、聖杯からのバックアップが働いたお陰でイリヤが支払う魔力は俺を現界させるために繋ぎとめる分だけと言う所まで落ちている。今の状態ならば実体化してもイリヤの負担にはなるまい。
「外の世界ってこんなにキラキラしているのね」
そんな彼女の感想は初めて遊園地を訪れた子供のようだった。
「ああ、そうだね。世界はこんなにも面白い事で満ちている。…だからまだ俺は生きているのだろう」
「チャンピオン?」
何を言っているのとイリヤ。あなたはとうの昔に死んでいるでしょう、と。
「あ、ああ。そうだったな。…イリヤ、せっかくの日本だ。何かしたい事はない?」
しまったと感じ直ぐに話題を変えた。
「うーん…そうね…そんな事急に言われても思いつかないわ」
「なら、ゆっくり考えるといい。時間はまだ有るはずだ」
「うん」
そう答えたイリヤは、しかし何かを探すように視線を動かしながら冬木の街の散策を再開するのだった。
深山町の古めかしい日本家屋が立ち並ぶ、一種の古きよき日本の街並みを歩くイリヤ。
すると突然イリヤの表情が険しくなり、何か大きな感情が爆発するのを必死に抑えているように深呼吸。その後、おもむろに歩き出すと一人の青年とすれ違いざまに一言その少年に聞こえるように囁いた。
「はやく呼び出さないと死んじゃうよ、お兄ちゃん」
と。
イリヤはいぶかしむその少年を通り過ぎ、振り返るそぶりさえなく坂を下っていく。
ああ、そうか。あの赤毛の少年がそうなのか。
情報通りなら自分とは相容れる事の無い少年の姿
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