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戦国異伝
第百二十七話 五カ条の掟書その十一

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「あの寺は様々な僧籍の方がおられるが」
「中にはお世辞にもよいとは言えぬ方もおられます」
「僧兵も多いですし」
「厄介な僧達でなければよいが」
 長政はこのことを危惧していた。
「全くな」
「はい、そうですな」
「それが心配ですな」
 家臣達もそれは同じだった。
「無明殿、そして杉谷善住坊という方です」
「無明か」
 この名には長政も反応した、そして言うことは。
「あまり僧籍の方にはよい名ではないな」
「ですな、それは」
「あまりよくはありませぬな」
「しかも延暦寺の僧でその名か」
「余計に不可思議ですな」
「怪しいものすら感じます」
「これから織田家と朝倉家の戦があるやも知れぬ」
 長政はこのことを今や常に念頭に置いていた。
「ここで当家がしっかりしていなければ」
「当家もですな」
「危ういですな」
「舵取りが多い舟は沈む」 
 かえって行き先が決まらずそうなってしまうのだ、これは近江の中にある琵琶湖でもままにしてあることだ。
「一人であった方がよい」
「ではここはどうされますか」
「一体」
「わしは一度親不孝をした」
 長政の顔に悔やみが入った。
「父上を無理に隠居させ蟄居させてしまった」
「六角との戦の時ですか」
「あの時ですな」
「あれは親不孝以外の何でもない」
 悔やみに満ちた言葉だった。
「だからもう二度とじゃ」
「あの様なことはですか」
「決してですか」
「せぬ」
 絶対にだというのだ。
「それはな」
「ではどうされますか」
「ここは」
「わからぬ」
 長政ではこのことはとてもだった。
「父上を邪険になぞ出来る筈がなかろう」
「はい、それはとても」
「我等も」
「父上は父上じゃ」
 長政にとっても浅井家にとってもだ。
「それでどうせよというのじゃ」
「はい、大殿ですから」
「そうしたことは」
「何度も言うがああしたことは二度とせぬ」 
 これが浅井長政だ、わかっていても夢道のことになるとどうしても出来ない、先の父への仕打ちも家の為に止むに止まれずだったのだ。
 それで今もなのだ。
「どうしてもな」
「ではどう致しましょうか」
「出来る限りのことをするだけじゃが」
 長政の、というのだ。
「少なくとも家は残すぞ」
「それだけはですな」
「どうしても」
「その為にわしの出来る限りのことをする」
 彼が考えられ出来るのはここまでだった、父への不孝はもう二度とするつもりはなかったし出来るものではなかった。
 浅井家の異変は信長も知らなかった、無論朝倉も。
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