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戦国異伝
第百二十七話 五カ条の掟書その八

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 だから浅井家は朝倉家のことも気にかけている、それでだった。
「若し両家が戦になってもですな」
「その時は」
「我等はどちらにもつけぬ」
 それはどうしてもだというのだ。
「全くな」
「はい、ですな」
「それは」
「無論兄上もこのことは承知しておられる」
 文でのやり取りでも確認している、それで万全だった。
「だからじゃ」
「我等は兵を出さぬ」
「そうしますな」
「うむ、朝倉殿は降伏されてじゃ」
 それで終わるというのだ。
「義景殿も重い処罰は受けぬ」
「我等も助命嘆願し」
「そうして」
「寛大な処置をお願いしましょう」
「そう致しましょう」
「それでよいであろう」
 長政もそれでよしとした。
「ここはな」
「はい、それでは」
「我等はその様に」
「義は守らねばならぬ」
 長政が常に思っていることである、それを言ったのである。
「義兄上、そして朝倉殿どちらにもな」
「だからこそ戦が決した時に」
「その時にですか」
「うむ、兵は動かさずにな」
 長政はあえてそうすることにしていた、家臣達も主のその言葉に頷き決まった。少なくとも彼等はそうだった。
 だが彼等がいる小谷城にはもう一人いた、長政の父である浅井久政だ。
 風采のあがらぬ小男であり堂々としている長政とは一見似ても似つかない、しかしその顔はやはり浅井の血がある。
 長政は彼に似たことがわかる顔だ、その彼も長政達の決定を聞いていた。
 静かな部屋で小姓達から話を聞いてこう言ったのである。
「よいぞ」
「殿の決定で、ですか」
「今の浅井の主は猿夜叉だ」
 久政は穏やかな声で答える。
「わしが言うことではない」
「だからですか」
「浅井はあ奴が動かした方がよいのじゃ」
 達観している言葉だった、顔も同じだ。
「だからじゃ」
「殿のお決めになられたままで」
「浅井は元々大きな家ではない、その浅井が生きていくにはじゃ」
「殿の思われることがよいと」
「織田家は大きい」
 浅井と比べてあまりにもだ。
「その織田家と盟約を結んでいるのならな」
「朝倉殿と戦になろうとも」
「義理はそれで果たせるしな」
 仲介に入りそして救えばというのだ。
「問題はない」
「そういうことですな」
「うむ、ではな」
 久政もそれでいいとしていた、だがだった。
 その彼のところにだ、不意にこんな話が来たのである。
「わしにか」
「はい、大殿にです」
 長政の決めたことを告げに来た小姓とは別の小姓が彼に告げたのである。
「お会いしたい方が来られています」
「このわしにか」
 久政は話を聞いてまずはいぶかしむ顔になった。
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