第三十一話 マウンドのピッチャーその十五
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「なかったのよ」
「何か私達が今観ている野球と全然違うんですね」
「それが戦前の野球だったんですね」
「そう、ピッチャーは先発完投で連投fが基本でそれも延長で二十イニングを超える投球もあったりしたのよ」
「そんなの出来るんですか?」
「稲尾投手とか杉浦投手より凄いんじゃないんですか?」
二人が知っている野球選手は大体この辺りまでだ、彼女達の親や年配の客から彼等の話を聞いて知っているのだ。
「村山投手とか」
「そうした人達よりも」
「だから当時はそれが普通だったのよ」
延長戦だろうが何だろうがピッチャーは先発完投で連日というのが、というのだ。
「アメリカでもダブルヘッダーで連日完投とかあったらしいから」
「ううん、凄いですね」
「そうした野球だったんですか」
「そういうこと、野球も変わるから」
それでだというのだ。
「もう全然違うわよ」
「その野球をその目で観るといい」
また日下部が二人に言う。
「是非な」
「日本のはじめの頃の野球ですね」
「それをですね」
「明治の頃にはもう入っていたがな」
正岡子規が愛してもいる、しかし高校野球や職業野球として定着したのは昭和になってからのことなのだ。
「それを観ることもいい」
「日下部さんはやっぱり」
「沢村栄治もこの目で観た」
こう愛実に答える。
「景浦もだ」
「あっ、阪神の」
「そうだ、観た」
この伝説的な選手もだというのだ。
「野口二郎もな」
「何か凄いですね」
「その時に生きていたというだけだ」
「それで沢村さんって本当に物凄い剛速球投げてたんですか?」
「私から観ればな」
そうだったというのだ、だがこれはあくまで日下部の主観だ。
「だが私の観たところ一番速かったのは尾崎か山口か」
「その人達は本当に凄かったみたいですね」
聖花がその二人のピッチャーの名前を聞いて言った。
「一六〇超えてたんですよね」
「超えていたな」
日下部はその彼等も思い出しながら聖花に答える。
「おそらくだが」
「ノビとか球威も凄かったらしいですね」
「まともに打てるものではなかった」
その域にまで達していたというのだ。
「二人共な。さて、そうした話は置いておいてだ」
「はい、今からですね」
「はじまりますね」
観れば審判達もいる、主審だけでなく塁審や線審達もいる。
「それじゃあ今から」
「観させてもらいます」
二人は主審、当然ながら幽霊である彼がプレーボールを告げたのを観た、それを合図に試合がはじまった。
茉莉也は飲みながらも真剣な面持ちで二人に話す。
「今から、時間が許す限り観てね」
「そうさせてもらいます」
「昔の野球がどんなのか」
二人もこう応えて観る、選手達はもう生者ではないがそれでも
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