夢、見果てたり
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開かれる。
「卿らしくなく、殊勝な態度ではないか」
皮肉られた元帥は、しかし頭を垂れたままであった。
「この期に及んで、まだ予に言いたいことでもあるのか」
死にゆく自分にではなく、将来を担う存在に言えと吐き捨てる皇帝を、両の義眼は何の色も示さずに見上げる。だが、漸く上向いたその貌が、微かに歪んで見えたのは気のせいではないだろう。黄金獅子の鬣を仰ぎ見たままの元帥は、色の薄い唇を小さく動かした。
「陛下は、500年続いた旧王朝の悪しき伝統を打ち砕き、見事に新しい時代を、新しい宇宙をお創りになりました」
相も変わらず淡々とした声で、義眼の男は言葉を紡ぐ。予の墓碑銘でも読み上げているのかと、またも皮肉を投げたい衝動に駆られながら、皇帝は臣下の言に耳を傾けた。
如何なる時であっても、この男の言葉に心地良さを感じることはない。しかし、如何なる時であっても、聞かねばならぬ言葉であった。反論の余地のない正論を武器とするのが、この男のやり方であるからだ。だからこの時も、何かに誘導されていると知りつつも、耳を傾けずにはいられなかった。
「私は陛下の才能と器量を信じ、私自身の望みをも託してお仕えしてきたつもりです。そして……私の望みは陛下の御手により叶えられました」
言葉とは裏腹に、その貌には苦痛の色が広がっていた。皇帝は全身の倦怠感に耐えながらも、眉根を寄せて疑惑を体現した。
「そうか、望みは叶ったのか。であれば、何ゆえ、卿は苦痛に顔を歪めているのだ」
それは尤もな疑問であり、義眼の男にも予想し得る質問であった。
――否、予想ではない。期待する質問であった。
「光には影が従うと、申し上げたことを覚えておいででしょうか」
そんなこともあったかと、皇帝は小さく嗤った。無論、覚えていないわけではなかった。
「陛下は、私が闇の中で見ることのできた、唯一つの光なのです。故に、私は陛下の影として生きることを自身に誓いました」
跪き、熱のない両目で見上げるその姿勢を崩すことなく、臣下として最高位にある男は、これまで口にしたことのない想いを吐露した。それが何の為であるのか、理解しているのはこの男自身だけであった。
「ほお、聞いたこともなかったが」
義眼の元帥は僅かに頷いた。その拍子に、彼の印象からは乖離した柔らかな頭髪が一本、立てた膝の上に落ちる。
――嗚呼、自分もこの髪のように、堕ちてしまえれば良いのに。
「自ら語るべきことではないと、戒めておりました」
そう答えた声は、辛うじて震えていなかった。
何かを吐露しながら、同時に何かを抑え込むような男の言葉に、主君がやや好奇の目を向ける。
「その高潔なる矜持を、今ここで捨てた理由については、なかなか興味深いな」
主君の問いに、男は暫時瞼を閉じてから、いつにな
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