第二章 メルセニク編
滅び行く都市よ
月を目指した都市
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いるのかここ数週間はいつも以上に眉間に皺が寄っていた。
そんな中、あくびをする猫の額でいつも通りの口調でエルミが口を開いた。
「そろそろ見えてくる頃さ、あんたも十分力をつけた……ほら」
「ん?」
シキの耳に振動音が微かに聞こえる。
勢い良く飛び起きたシキは小走りで運転席まで行き、剄を目と耳の感覚強化に回す。
どうやら前方に都市を目指している途中の放浪バスが見え、そのまた遥か前方には見慣れたシルエットが見えた……都市だ。
「おぉ…おぉ?」
シキは目をこすり、更に目を強化し見えた都市を見据える。
大きな建物があった、いや建物というよりも塔か。明らかにエアフィルターを超える高さで建っていた。
「正気か? あの都市」
「何を見てるか知らんが、お前よりかは正気だと思うぞ」
独り言を嫌味で返すドミニオを一睨みし、シキはメルセニクを見る。
正気の沙汰ではないのは誰の目を見ても明らかだった。都市というのはそれぞれ特色を持っている。技術が盛んな場所、食べ物が美味しい場所、学問を学ぶ場所、情報が集まる場所と様々な用途に特化している。だが大原則がある。
汚染獣が集まるようなことはしない、ということだ。
だが、あの都市はそのリスクを犯している。アレだけの高さだ、安全性は確かめているだろうが確実にレギオスの歩みを邪魔しているだろうし、物知らずのシキだってわかるくらい無謀だ。
「なんであんなことしてるんだろう」
「さぁ? 私からすれば無駄な努力、と切って捨てるがね」
いつの間にかシキの足元に来ていたエルミがそう応える。
「無駄な?」
「そっ、無駄。アレだけの資材と人員を割いたとしても月には勝てるわけないのにね」
「月?」
「近いうちに嫌ってほど相手することになるから安心しときなさいな」
意味深な事をエルミはいうとソファまで戻り丸くなって寝てしまった。
シキは釈然としない気持ちで首をかしげる。
しかしその気持ちは激しい衝撃で打ち消される。バスが揺れているのだ。
「な、なんだ!?」
「黙っていろ、都市に着いた」
「へっ!? ってうわぁああああああ!?」
一気に浮上するフワッとした感覚を感じ、さらには先程よりも酷い揺れがバスを襲う。
シキは初めての経験なのだが、これが都市が放浪バスを回収する方法なのだ。極稀に止まって回収する場合もあるが基本、動いている都市は釣りの要領で放浪バスを文字通り外縁部まで釣り上げる。
そして用意されていた緩衝プレートに車体がぶつかり、完全に動きが止まった。
こうしてシキは滅ぶ都市、メルセニクに降り立った。
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