病み六花の自己中が解放される時・前編
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間が過ぎても、マナは現れなかった。
*
ああ、どうしてこんな日に!
と、心底思う。
そうは思っても、やっぱり相田マナは困った人を見捨てられずにいた。
道端でいきなりお婆ちゃんが倒れ、怪我をする現場に行きあっては、もう放っておく方がおかしいというものだ。
「ヒヨリ、ヒヨリ……」
救急車の中、おばあちゃんはマナでない誰かの名前を呼びながら、しかしマナの手を握っている。
きっと娘か、あるいは孫の名前なのだろう。
「大丈夫ですよ。お婆ちゃん」
マナはそっと笑いかける。
病気だったのだろう。急に発作を起こしたお婆ちゃんが石畳でいきなり倒れ、その時に地面に頭をぶつけてしまった。まるで全力疾走でもした後のような激しい呼吸に、頭部からの出血を見て、危険な状態だと判断したマナはすぐに救急車の手配をしたのだ。
そして、マナはそのままお婆ちゃんに付き添っている。
「ヒヨリ……」
寂しそうに、切なげにその名前を呼ぶお婆ちゃんの声。
「大丈夫、ヒヨリはここにいるよ」
そんなお婆ちゃんの手を、マナは優しく握り返す。
病院へ到着すると、お婆ちゃんはすぐに病室へ運ばれた。
ここまですれば十分すぎるほどの親切で、これ以上マナが関わる義理はなかったが……。
病気の重い症状を看護師から聞き、場合によっては危篤に陥る可能性もあると知り、すぐにヒヨリを呼ばなくてはと使命感にかられたのだ。
運良くお婆ちゃんは携帯電話を持っており、そこに載っていたアドレス帳からヒヨリにあたる人物へ連絡を取れた。
しかし――。
「大変失礼ですけど、その話が嘘じゃないって、ちゃんと証明できますか?」
警戒された。
世の中には親戚や家族が入院したと言って、親族をダシに詐欺を働くような手口もある。いきなりお婆ちゃんが病院へ、なんて言われても、きっと疑いを持つのも当然のことで、それを晴らすのに時間がかかってしまった。
辛抱強く事情を話して聞かせていき、やっとの事で話を信じてもらえた。
両親を引き連れ、すぐに駆けつけるとの事だ。
どうやらヒヨリとはお婆ちゃんの孫にあたる子で、今は中学生らしい。近頃は顔も見ていなかったせいで、自分のことが恋しくなっていたのだろうとヒヨリは電話で言っていた。
病院の入り口でヒヨリを待ち、まもなく母親を連れた彼女が現れたことで、ようやくマナはこの場を離れることが出来た。
ここまでくれば、もう自分に出来ることは残っていない。
あとは孫の顔を見て元気をつけるのが一番だ。
家族で笑顔になれますように。
そして……。
(待たせてゴメンね。六花)
マナは待ち合わせ場所へ向かって、全速力で駆け出した。
だが、救急車で遠く離れた病院からでは、待ち合わせの駅までにはかなりの距離
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