第1話「剣道少女、麗華」
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とした。
おそらく彼女は担任から指導室へ行くように言われているはずだが、誰に何の用で呼び出されたかまではわからずにいたのだろう。行ってみれば教師ではない男がいて、誰かと思えば医師と名乗ったのだ。それは「え?」ともなるのかもしれない。
「私に何か病気でもあるのですか?」
そう捉えるのが自然だろうか。
「いえ、そうではありません。あなたを呼び出した理由というのは、医師として少し検査に協力をして頂きたいと思ったからです」
「検査? どういうことですか?」
「医学のため、中学生少女の平均指標を作るため、あなたの身体的データを取らせていただきたいのですよ」
麗華は怪訝な顔をした。
「より厳密な身体測定、ということですか?」
「そうですね」
「お断りします」
即答だった。
普通なら多少は迷う素振りを見せるはず。そもそも、大人からの頼み事となれば、子供の立場では心理的に断りにくいものがあるはずだ。
にもかからわらず、あまりにもきっぱりとした答えだった。
逆にこちらの方が驚いた顔をしていたかもしれない。
とはいえ、今までこの検査を受けた少女は断りきれない子や騙された子が大半だ。より厳密な身体測定と聞いて、麗華はすぐに検査内容への警戒を抱いたのだろう。
「……そうですか。これは報奨金の出る話なのでしたが、それは残念です」
「報奨金?」
金に反応を示したのだろうか。
「ええ。何しろお時間を頂いた上でデータを取らせてもらうのですから、相応の報酬が支払われます。気が変わったりは致しませんか?」
試しに美味しい部分をチラつかせるが、麗華の怪訝そうな顔つきに変化はない。
それどころか――。
「ありえませんね」
またもきっぱりと話を蹴られた。
彼女は続ける。
「私には剣道の全国大会が控えています。勝たなければならない相手と戦うため、日々の鍛錬は欠かせません。今こうしている時間さえ勿体無いくらいなんですよ」
なるほど、時は金なりか。
鍛錬の時間とやらを少しでも削られたせいで、どうやら敵意を向けられてしまっているらしい。あえて苛立ちを表に出しているのも、「さっさと用事を済ませろ」という遠まわしなメッセージなのだろう。
これでは引き下がる他はない。
「わかりました。お時間をお取りして申し訳ありません」
「では失礼します」
彼女は礼儀正しく頭を下げてから退室する。
「やれやれ、あれでは交渉の余地もない」
しつこくする手もあったが、おそらく麗華が相手では食い下がれば食い下がっただけ苛立たせるのが落ちとなり、良い結果には繋がらない。
諦めて他をあたるか、はたまたは何か手を打ってみるか。
さて、どうしたものか……。
*
黒崎麗華の家は大家族である。
麗華を長女として
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