第百二十七話 五カ条の掟書その五
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「余を何だと思っておる」
「最早ご自身が将軍と思われているのでしょう」
これが崇伝の言うことだ。
「ですから公方様にもです」
「ないがしろにしてここまで言うか」
「はい、あまりにも不遜ですな」
「全くじゃ」
義昭は将軍の席で言っていく。
「これは許せぬ」
「お聞きになられることはありませぬ」
相当な高齢と見られる僧も言ってきた、見れば彼も闇の僧衣に袈裟だ。二人共尋常な格好の僧では到底ない。
その彼等がこぞって義昭に言うのだ。
「上様、ここはです」
「右大臣殿の言葉は無視されるのです」
「このままずっとです」
「上様は上様の道を歩まれて下さい」
「そうだな、余は将軍だ」
義昭も彼等の言葉を受けて胸を張って言う。
「例え織田信長でも言うことを聞く必要はないのう」
「それに織田家は所詮成り上がりの家ではありませぬか」
天海は笑みを浮かべて言う、崇伝以外の者達がその言葉に怪訝な顔になり引いているのは見ているがそれでもだ。
「それで聞くことなぞ」
「そういうことじゃな」
「左様です、それではですが」
「うむ、これは聞かぬ」
義昭は二人の言葉に従った。
「そうするぞ」
「あの、上様それは」
「それはどうかと思うのですが」
二人以外の幕臣達は義昭に怪訝な顔を向けた、そのうえで言う。
「右大臣殿は心から上様のことを考え諫言されています」
「そのお言葉を聞かずしては」
「やはりどうかと思います」
「ですから」
「何を言う、右大臣は有頂天になっておるのじゃ」
義昭は幕臣達の言葉をこう言って否定する。
「それに対して余は武門の棟梁ぞ」
「それはそうですが」
「その通りですが」
「武門の棟梁をないがしろにするとは何事か」
武家の中では一理ある様に聞こえる、だがだった。
殆どの幕臣達は怪訝な顔になりそのうえでまだ義昭に言おうとする、だがここで義昭は家臣達に言った。
「今日の話はこれで終わりじゃ」
「あの、それは」
「まだお話したいことが」
「ふん、御主達は皆右大臣から禄を貰っておるではないか」
中には万石取りもいる、明智に至っては十万石を超える大身になっている、それも義昭にとってはなのだ。
「幕臣ではなく織田家の家臣ではないか」
「いえ、我等は幕臣です」
「ですから上様に」
「何処がじゃ。幕府の禄を貰ってはおらぬではないか」
義昭はまだ言う。
「青い吹くでも着ておれ、勝手にせよ」
「では上様、茶を淹れますので」
「後は茶室でお話をしましょう」
幕臣達が戸惑ったところでまた崇伝と天海が言う。
「詳しいお話はそこで」
「そうしましょうぞ」
「わかった。それではな」
義昭は二人の僧達とだけ話すのだった、信長からの掟書は結果として完全に無視され
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ