第百二十七話 五カ条の掟書その四
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「わしは天下泰平を目指しておる」
「朝倉殿はそれがわかっておられませぬ」
丹羽も言う。
「そのことは大きいですな」
「そういうことじゃ。猿夜叉もまたわしの天下統一に力を貸してくれておる」
「朝倉との盟約を言う者は浅井家には殆どいませぬ」
竹中もこのことを言う。
「まことに」
「今更じゃな」
「時の流れには逆らえませぬ故」
義に続いてこれもあった。
「ですから」
「そうじゃ、では何の問題もない」
朝倉と戦になってもだというのだ、浅井家とのことには誰も何も憂いも感じてはいなかった、久政のことは誰も気付いていなかった。
小寺官兵衛、今は黒田と姓を変えた彼もこう言うだけであった。
「久政殿は朝倉との盟約を大事にしておられますが」
「あの御仁じゃな」
「しかしあの方は隠棲しております」
だからだというのだ。
「特に考ることはありませんな」
「わしもそう見ておる」
「ですな、猿夜叉殿が仕切っておられます」
「浅井家の家臣達も猿夜叉についておる」
「それでは何の問題もありませんな」
「うむ、全くな」
久政については誰も何も思ってはいなかった、この読みは正しかった。確かに今の彼はただの隠居でしかないからだ。
程なくして信長は義昭にその掟書を送った、それを読んだ義昭は幕臣達の前で目を怒らせてこう喚いた。
「何じゃ、これは!」
「右大臣殿からの文に何か」
「何かあったのでしょうか」
「けしからん、これを読んでみるのじゃ」
こう言っていぶかしむ幕臣達に見せた、その内容はというと」
「ふむ、御内書は出す際に右大臣殿に中身を知らせてですあ」
「そして右大臣殿の添え状と共に送る」
御内書とは諸国に将軍の名で送る書のことだ、将軍が己の裁量で出すものであったがそれをだというのだ。
これが最初だった、続いては。
「公方様のこれまでの下知は無効」
「現状にのった施策を行うべきと」
これが二番目であった。
「幕府の恩賞、褒美がない場合は右大臣殿が出される」
「土地も宝も」
三番目の話も為された。
「天下のことは右大臣殿に任せられたから公方様に逆らう者は右大臣殿が成敗される」
「兵のこともですな」
四番目がこれである。
「最後に天下は落ち着いたから禁中に失礼のない様に」
「公方様へのことですか」
「全て何じゃ」
義昭は顔を真っ赤にさせて言うのだった。
「余は将軍じゃ、将軍にここまで言うか」
「これは恫喝ですな」
僧衣も袈裟も何もかもが闇の色の不気味な僧侶が言って来た、見ればその顔は整っているが妙に陰がある。
若いがそれ以上に近寄れないものがある、その彼が言うには。
「右大臣殿からの」
「崇伝、御主はそう思うか」
「はい」
崇伝と呼ばれた僧侶は義昭の問
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