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八条学園怪異譚
第三十一話 マウンドのピッチャーその七
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「そうも解釈出来る」
「ですよね」
 聖花が日下部のその言葉に応えた。
「この場合の泉は」
「泉と言うべきか扉と言うべきか」
「どっちがいいでしょうか」
「やはり泉になるのか」
 日下部は腕を組み首を傾げさせつつ述べた。
「しかし扉である場合も多いしな」
「どうして泉になったんですか?」
「その候補地の一つが泉だったからだ。博士が言い出したか」
 あの悪魔博士のことである、この学園の生き字引と言っていい彼である。
「そうだったか」
「あの博士ですか」
「確かここに百年以上おられるんですよね」
「この学園は明治の初期に出来た」
 その頃にだ、日本の学園の中ではかなり古い方である。
「創立の頃からおられたそうだが」
「うちの学園って東大と同じ位に設立された筈よ」
 聖花は真顔で愛実に囁いた。
「日本の学園の中でもトップクラスに古い大学よ」
「そういえばそうよね」
 愛実も聖花に言われて学園の歴史を思い出した、妖怪のことを調べているうちに学園の歴史のことも勉強することになったのだ。
「確か普通の国立大学よりも古いのよね」
「それこそ大阪大学とかよりもね」
 かつては大阪帝国大学といった。東大に京大、名大こと名古屋大学、北海大、東北大、九州大にその阪大、そこに京城と台北を合わせたのが戦前の日本の九帝大である。
「古いから」
「博士ってその頃からここにおられたのよね」
「本当にお幾つかしら」
「ひょっとしなくても百五十超えてない?」
「よっとしなくても不死じゃないかしら」
「その可能性あるわね」
 こうした話を二人でして真剣に疑問を感じていた。
「やっぱり」
「江戸時代から生きておられたっていうのは本当じゃないかしら」
「少なくとも日下部さんよりずっと年上だし」
「どういった人なのかしら」
 尚日下部の死因は老衰である、九十歳の大往生である。博士の謎は尽きない。
 二人が博士について話していると日下部が言って来た。
「それでだが」
「はい、これからですね」
「何はともあれ」
「そうだ、ベンチに行くぞ」
 その一塁側のだというのだ。
「そこに行こう。それで案内役だが」
「あれっ、日下部さんじゃないんですか?」
「そもそも案内役が必要じゃない位近くにありますけれど」
「このダイアモンドにも住人がいるのだ」
 野球を行うここにだというのだ。
「その人達の紹介もある」
「野球をしておられた人達ですか?」
 愛実はふと直感で感じて日下部に問うた。
「その人達ですか?」
「そうだ、私よりは年上だが」
「幽霊さんですか」
「戦前の野球のな」
 野球黎明期と言っていい時代の人達だというのだ。
「丁度沢村栄治の時代だ」
「ああ、その頃ですか」
「昭和十年代ですね」

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