☆師匠と英雄
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包まれ、方向感覚を失わせる魔の領域を踏破する。
――そして、私の願いは叶えられた。
聞こえてくる川のせせらぎ。走り始めてすぐ、唐突に視界が開く。なだらかな丘陵が現れる。小さな川は澄み渡り。隣には質素な小屋。煙を出している竈と、そこに座っている男。白い外套を羽織り、漆黒の髪を腰まで流している。手には薪を持っており、時折それが無造作に竈へと投げ込まれる。
間違いない、あの人だ。
変わっていない懐かしさと見つけられた安心感で声をかけそうになるもすんでで堪える。代わりに、加速。音を消し気配を絶って瞬動。放つは抜き身での一撃。ただし、全力で。
「――朝食をとろうとしてみれば。一介の陶芸家に切りかかるとはな。なんとまぁ、無粋な輩だ」
声が後方からかけられる。私の全力の一撃を造作もなく回避し、一瞬で私に気づかれずに背後をとる。圧倒的な実力に翳りは全く見られない。やっぱり、この人は出鱈目だ。内心で苦笑する。
「比古清十郎は一介の陶芸家では無いでしょう」
「……かつてのバカ弟子を彷彿とさせるやりとりだ、と思えば。おまえもバカ弟子だったな」
以前、聞いた事がある。この人には昔一人だけ弟子がいたと。彼の事を話すこの人はどこか淋しそうで。だから私は彼のことをあまり尋ねない。
「……多分その兄弟子と同じ目的ですよ」
師匠が同じだから。今の錆び付いた私の腕では白い髪の少年――フェイト――には勝てない。全盛期の力を取り戻す必要がある。それも早急に。手遅れにならないうちに。我々の問題を次の世代に押しつけるわけにはいかないのだ。
「……はぁ。おまえもか」
どこかウンザリした声に、堂々と返答する。
「師匠。不肖の弟子、近衛春詠故あって再び姿を現すこと、お許しください。そしてかつて残した飛天御剣流の奥義の伝授、今こそお願い致します」
………
……
…
――――これは剣神が生まれる前の日の、些細なものがたり。
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