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Monster Hunter ―残影の竜騎士―
第二章 Alea jacta est ―災厄の乙女―
1 「東雲の風」
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間に皺を寄せながら耳にしていた。

「まあ、お食事前に暗い話をしてしまって、申し訳ないわ。参りましょう。貴方の新しい仲間が、待っているでしょう?」
「…仲間…、…ええ、そうですね。行きましょうか。段差が多いですから、お気を付けて」
「ええ、ありがとう」

 暖簾を腕でまくり先に真砂を通してその背を追う。喧騒が近づくにつれて、まるで今この10分の間に聞いたことなど全て嘘なのではないかと思う。
 未だうら若い娘であるいもうとの雪路が不治の病にかかり、また8つ下の双子の弟妹はハンターに転職していた。隻眼となった父はもうハンターを続けられないだろう。

 捨てた筈の過去が崩壊していく。

 後悔しないと決めた筈なのに、恐れていたはずの、過去とともに捨てたはずの父の負傷に、身が捩れるような傷みを味わった。

『貴方は、強くなったわね』

 自分が逃げなければ、今頃父も穏やかな老後を迎えていたのではないか。
 まだ幼い妹と弟が死と隣り合わせのハンターにならずに済んだのではないか。
 真砂もそれを責めているとでもいうのか。

(仕方がないじゃないか。何故今なんだ。何故あの時――)

 守りたいと思ったものが、手のひらから溢れていくような不安感。

(――あの時に、俺を必要としてくれなかった……ッ!!)

 全ては、あまりに急に知らされすぎた。

 強く強く握り締めた拳は白くなる。震える手に、誰かがそっと触れた。同時に肩に飛び乗るあたたかい何か。

「早く行きましょう!」
「料理冷えちゃうでしょ。あんたがいないと始まらないのよ」
「にゃふー!」

 ナギが、今、愛すべき者たち。
 気づけばナギは立ち止まって、真砂は先に会場に消えていた。それぞれ自分の両手を握る柔らかい少女達の手のひらは、首に擦り寄る暖かな肢体は、ナギの固くなった心を溶かすのには充分すぎて。

「……ッ」
「え!?」
「うわ、ちょ!」
「ふにゃ?」

 思わずナギは2人の腕をひっぱり抱きしめた。ぎゅっと、慌て固まる2人に構うこともなく、縋り付くように。確かにそこにいることを確かめるように。

「…ごめん、ちょっとだけ……こうさせて」

 なんとか絞り出した声はそれだけしか言葉にならず、あとはただ細く薄い肩に顔をうずめて歯を食いしばった。
 2人は抵抗すらできず、いつになく弱々しい師の姿に狼狽するばかりだった。そろそろと遠慮がちに腕を上げたエリザが、そっとナギの背を撫でる。びくっと震えた大きな背は、その手を拒むことはなかった。
 ナギが照れ笑いを浮かべながら2人を開放したときには、ルイーズは襟巻きのようにナギの首に巻きついてすやすやと居眠りをはじめていた。

「ありがとう」
「いえ…」
「いいけど……大丈夫?」
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