第二章 Alea jacta est ―災厄の乙女―
1 「東雲の風」
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(ただし色は群青)とアームウォーマー、下は膝までのズボンになっているようだ。
ナギを「クソガキ」と呼んだのはその少年の後ろに立っている男だ。長身のナギよりも更に拳1つ分背が高い。高く1つに結った長い黒紫の髪と家の窓から入る光に光る瞳は、花のように鮮やかな紫。ナギと同じような黒い着流しをさらりと着こなしている。そちらには見覚えがあったらしく、ナギは驚いたように声を上げた。
「菖蒲兄、か……?」
「よう。随分見ないうちに上にばっかり伸びたようじゃねえか。ちゃんと食ってねえとただのヒョロになっちまうぞ?」
「というと……まさか…汀と、岬?」
「そうだよ! 遅いぃ! 本当に忘れてるかと思ったぁ!」
「す、すまん」
「仕方ないよ、みー。あの時僕たちまだ5歳だったんだから」
「むー! 私覚えてたのにー!」
自分の家のはずなのに、完全に蚊帳の外となっているエリザとその横で石像のように固まったままでいるリーゼロッテに、“アヤメ”とナギが呼んだ男がさっと正座した。彼が「おい」と声をかけると、ミギワはぶーぶー言いながらもナギの首から離れ、すっと正座をする。ユキジとミサキもそれに続いた。単に座っただけだというのに、その動きには思わず見惚れてしまうような流麗さがあった。ナギの戦舞のようだ。
その時ふたたび暖簾がめくられ、家に傾き始めた赤い太陽光が差し込まれる。入ってきたのは上品な雰囲気の女性。赤茶の髪に夕日が当たってその髪は燃えるような紅に見えた。
既に正座して待っていた面々を見ると僅かに頷き、一列に並んだ彼らの前に、誰よりも優雅に座ると、スっと頭を下げた。再び顔を上げて、前髪から覗く茶色の瞳が見たのは、ナギ。
「まずは、感謝を。ファンゴの大群から守っていただいたこと、心より御礼申し上げますわ。……ナギ・カームゲイル殿」
最後の言葉に、ナギと後ろで共に礼をしていた雪路の同じ海色の瞳が見開かれる。
ひどくカラカラに乾いた声で、ナギが「とんでもございません」と正座に座り直した。今までもナギは村長など目上に対しては敬語で接していたが、いつもよりもより丁寧に、洗練された動きのように2人の弟子の目には映った。
「当然のことをしたまでです。……お久しぶりです、真砂さん」
「ふふ。堅苦しいのはここまでといたしましょう。皆、くつろいで結構ですよ」
「ふー!」
まっさきに胡座に足を組み直したのはミギワ。
マサゴと呼ばれた女性は、リーゼとエリザに笑いかけると、自己紹介を始めた。
「わたくしは東雲 真砂。シノノメ楽団の団長を務めております。ご存知でしょうか? 大陸中を渡り歩く歌舞劇団なのですが…」
「ああ、知ってます! 一昨年の暮れあた
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