第二章 Alea jacta est ―災厄の乙女―
1 「東雲の風」
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海色の瞳をうるませる雪路は、きゅっと着物の襟を握り締めた。目尻に溜まった透明な雫を拭うと黙って見つめることしかできない2人に、
「あの…実は、今ここに連れがいるんです。みんな、お兄様に会いたがってて…」
「どうぞ、是非呼んできなさいよ。あたし一人暮らしだし」
「ありがとうございます!」
スっと立ち上がると一礼して、ぱたぱたと外へ駆けていった。残された2人は同時にため息をつく。
「……ユキジさん、か。確かに、音の特徴がナギさんと似てるね」
「服も普段あいつが着てるのと同じやつだったわ。色は白染めだけど。なんだっけ、あのはんてんの裾伸ばしたみたいなやつ」
「着流し、ね」
突然戸から聞きなれた声がして振り向いた。逆光の下暖簾を片腕で上げて家の外を見つめているのは、ナギだ。まだ服は村人のものだが、どうにも違和感を感じる。
「何してたのよ」
「いや、冷えた飲み物飲みながら、心の準備を」
「心の準備って…妹さんなんですよね?」
「ああ……まあ、ね。髪が白くなってるのには、驚いたけど。……大きくなったんだな」
靴を脱いで、2人の斜め後ろにあぐらをかく。不思議そうな視線をうけて、苦笑した。なぜ家族と離れた位置に座るのか、ということだろう。なんと答えようか迷って、次いで家の戸を見る。リーゼ達もそちらに視線をやった。
外でばたばたと走る音がするかと思えば、弾丸のような何かがすっ飛んできた。びっくりして固まるリーゼとエリザの目の前を通り過ぎて、黄色い何かはナギの胸にタックルするように抱きつく。なんとか受け止めたナギも、首にぶら下がっているのが何なのかわかっていない様子だ。
その“首にぶら下がっている何か”は、涙声でナギの名を叫んだ。
「兄ちゃ!! 兄ちゃ兄ちゃ兄ちゃ……! 会いたかった!!」
カチンと固まったナギの胸から顔を離すのは、14、5歳の少女。黄色く見えたのは着物が黄色い布でできているからだったようだ。ナギの“着流し”と似ているが、裾が膝上であることと、袖がないのが彼や雪路のものと異なる点だろうか。袖が無い代わりに、腕には着物と同じ素材のアームウォーマーをしているため、それほどはしたない服装だという印象は与えない。ただ動きやすそうではある。
明るい茶色の髪は短く、前髪を上にピンで止めている。ナギや雪路の海よりやや浅い、湖のような青の瞳は涙を湛えてナギの海を貫く。ナギは目を瞬かせた。
「え…と…?」
「私だよ! 凪兄ちゃ!」
「覚えてませんか? 兄さん。僕たちのこと」
「まさか俺まで忘れてるとか言わねえよなぁ、クソガキ?」
え?
少女に遅れて雪路と共に入ってきたのは、少女と同い年くらいの明るい茶髪をもつ少年。瞳も同じ湖面の青。彼も少女と同じように袖なしの着物
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