第二章 Alea jacta est ―災厄の乙女―
1 「東雲の風」
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「天満 雪路と申します。どうぞよしなに」
白髪の少女はそう言って、深々と頭を下げた。その向く先には同じく正座したリーゼロッテとエリザ。
「よ…ヨシナニって……?」
「馬鹿ね、『よろしく』ってことよっ」
こそこそと裏話をしながらチラリと少女――雪路を見る。きょとんと2人を見つめるその瞳は、敬愛する師、ナギのものと同じ海の色。
そのナギはというと、少女の名を呼んで絶句したあと「頭を冷やしてくる」とかなんとか言って、雪路をリーゼロッテに押し付け立ち去った。止める間もなく再び集会浴場へと向かったから、冷たいドリンクでも飲んでいるのだろうか。しかし感動の再会らしき雰囲気だったのに、何故その表情は苦いものを含んでいたのだろう。雪路は雪路でリーゼに肩を掴まれたままうつむいている。
そのまま3人で立ち尽くしている訳にもいかないので、とりあえずエリザの家(リーゼロッテの家は今宴の準備で忙しいので)に呼んで現在向かい合っているというわけである。
「ええと、リーゼロッテ・マインです。リーゼって呼んでください…」
「あたしはエリザ・ヴェローナ。よろしく。エリザでいいわ」
「はい。リーゼ様、エリザ様。私のことはご自由に」
「「どうも……」」
沈黙。
2人がなんと声をかけていいのか迷っているうちに、雪路の方から話題を出された。
「おふたりは、お兄様の……恋人ですか?」
「こっ…!!?」
「いや!? 全然!? ああああたしたちは、ただの、ええと、そう、弟子! 師と弟子の関係よ!」
「そうでございましたか」
「あ…ハイ」
さらりと流され、2人で赤くなったのが馬鹿みたいに思えて、何故かこの場にいないナギを恨めしく思ったエリザだった。
しかし、どうやら雪路の方も緊張していたらしく、照れたようにはにかんだ。白い頬は桃色に染まり、どうにも恋する若い娘のように見える。
「突然申し訳ありません。私の方も、まさか、こんなところでお兄様と再会できるとは思ってもいなくて……気が…動転してしまって。恥ずかしい。つい昔の呼び方で読んでしまいました」
「あの、人違いじゃないんですよね?」
「ええ。間違いありません。迅竜を従えることが出来る殿方なんて、古今東西探しても、凪お兄様だけでしたもの。あの方のお名前は、天満凪様でしょう? ああ、こちらではナギ・テンマでしょうか」
「え?」
2人は顔を見合わせた。ナギ・テンマ。彼はそんな名前だっただろうか。
「ええと、確かにナギ、という名前ですけど…。苗字は確か、カームゲイルと名乗っていたような……」
「……まあ。そう…ですか。いえ、でもこれではっきりしました。あの方は、私の、私達の凪お兄様でした」
頬は色を失い、
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