第百二十六話 溝その十四
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「織田家とは何の関わりもありませぬ」
「織田家にも僧侶の方はいますが」
雪斎や沢彦だ、信長は徳のある僧侶は認めその話を聞くのだ。
「それでも人によりまして」
「崇伝殿や天海殿はですな」
「今はじめて公方様と関わりがあると聞きました」
その傍にいるということをだ。
「勘十郎様は時折南禅寺のことを仰ったり殿への文で書かれてはいますが」
「崇伝殿はですか」
「しかし天海殿は」
その者はというのだ。
「はじめて聞きました、よくわからぬ方ですな」
「今公方様はそうした方々とばかりお話をされています」
「危ういですな、それは」
「何とかしたいと思っていますが」
「わかりました、それではです」
山内は明智に畏まって述べた。
「それがしから殿にお話しておきます」
「そうして頂ければ何よりです」
「これで幾分かわかった様な気がします」
山内は明智と話してこう言った。
「近頃の公方様の妙なお動きは」
「朝倉殿にも文をしきりに送っておられます」
「ですな、それも」
「これまた怪しいです」
明智もこのことは把握していた、幕府きっての切れ者というだけでなく織田家からも十万石を超える録を貰い重臣扱いにされているだけはある。
その切れから見抜き言うのだ。
「確かに公方様は誇り高い方ですが」
「そうした文を送られる方だったのでしょうか」
「文はよく書かれます」
それはというのだ。
「それもしきりに。ですが」
「それでもですか」
「一つの家に頼っていて他の家にしきりに助けをせがむ様なことは」
そうしたことはというのだ。
「される方ではありませんし。ましてやこの度のことは下手をすれば大きな戦になります」
「織田と朝倉の」
「はい」
それこそ双方共万を超える兵を動かす大きな戦だ、力の差は織田の方が圧倒的だが朝倉も万を超える兵を出せるのだ。
万と万の平がぶつかる、そうした大きな戦を起こしかねないことを明智は真剣に危惧してそのうえで言うのだ。
「戦を好まれる方ではなかったです。血の気はありましたが」
「それを起こしかねないことも」
「はい、そこまで騒ぐ方ではありませんでした」
確かに厄介なところがあるがそこまでは至ってなかったというのだ。
「ですがそれが」
「大いにですか」
「変わりました」
「そしてその変貌にですか」
「どうやら」
明智は危惧する顔のままだった、そのうえでの言葉だ。
「そう思って宜しいかと」
「以心崇伝、そして」
「南光坊天海です」
「その二人の僧侶ですな」
「双方共只者ではありませぬ」
明智は確かな声で語る。
「殿にはくれぐれもお気をつけなさる様にと」
「畏まりました、それでは」
「はい」
こうした話をしてだった、山内は岐阜に戻った。
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