第百二十六話 溝その十三
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「それで何故北条家や佐竹家に入らなかったのか」
「そのことでありますか」
「それが気になるのですが」
「何処の家の誘いにも乗らなかったとか」
明智は彼が今まで名はそれなりに知られていた様だが世に出なかった理由も話した、それはこういうことだった。
「幾ら誘われても」
「百歳になるまで」
「ほぼ隠棲に近かったとか」
「そうだったのですか」
「その間に古今和漢のあらゆる書を読み」
そしてだというのだ。
「歌楽も学び様々なものを学んだとか」
「その百年の間に」
「法力もかなりです」
僧侶のこれもだというのだ。
「これは以心崇伝殿も同じですが」
「法力ですか」
「暗がりの中に火の球を出してそれを灯りにするまでに」
無論法力で出したものである。
「そこまでです」
「それはまたかなりのものですな」
「そこまでの法力もあります。ですが」
「何故幕府にと」
「そうです」
明智はこのことも怪訝に思っていた、それで山内に話すのだ。
「今の幕府に来るとは」
「しかも北条家の誘いを断ってですな」
「はい」
そのうえでだというのだ。
「あの東国随一の権勢を誇る北条家のそれを」
「北条家は天下でも屈指の家です」
織田家から見てもそうだ、北条家の権勢は侮れない。石高も二百万石を優に超え何万もの軍勢も動かすことが出来る。
それに対して今の幕府はどうか、もう言うまでもないことだった。
それで山内もいぶかしむ顔で言った。
「それを断ってとは」
「おかしいと思われますな」
「はい」
その通りだと答える。
「どう考えましても」
「それがしもです」
「やはり明智殿も」
「それがしも東国にいたならば」
明智は北条家の勢威と氏康の器量を思い出しながら言う、彼はまだ会っていないが氏康の器量は見抜いているのだ。
「北条殿に入りました」
「そうされていましたか」
「はい、若しくは武田家か」
甲斐は東国ではないが東国にもまで影響があるのでだ。
「上杉家もありますが」
「佐竹家もですな」
「三家に比べて佐竹家は小さいですが」
それでもだった、この家も。
「主の義重氏もまたかなりの傑物と聞いています」
「あの御仁も鬼と呼ばれてますな」
「はい、それだけにです」
その器量はというのだ。
「かなりのものですので」
「佐竹家もありますな」
「この四家です、ですが」
「幕府はありませんな」
「東国からあまりに遠いうえにその権勢はどうにもなりません」
山城一国も掌握出来なくなっている、これが幕府の今だ。
「精々この都にいられるか」
「それ位ですか」
「我々もその禄は織田家から出ています」
殆どの幕臣がそうだ、幕府の禄は僅かどころではなく織田家の禄がなければ生きていら
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