第三十一話 マウンドのピッチャーその一
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第三十一話 マウンドのピッチャー
愛実の店はこの日も忙しかった、昼になると近くの会社からサラリーマンやOLが来る、他には主婦や学生も来ている。
夏休みなので学生も多い、彼等は部活帰りや行きしなに店に来て食べている。
愛実も店を手伝っている、その中で。
カウンターにいる父親からこう言われた。
「おい、焼きそば定食出来たぞ」
「三番のお客さんね」
「ああ、お姉さんの方な」
愛実が三番と言って見た入口の近くの席には男女一人ずつ向かい合って座っている、その二十位の美人を見ての言葉だ。
「あの人な」
「わかったわ、それじゃあね」
「お兄さんのカツ丼ときつねうどんも出来るからな」
美人の相手のことも話す。
「すぐに戻って来いよ」
「わかったわ」
「愛実ちゃん、二番は私が行くから」
愛子も言って来た、見れば彼女も店を手伝っている。姉妹でお揃いの白い割烹着と同じ色の三角きんを着けている。
「テーブル拭いておくわね」
「有り難う、お姉ちゃん」
「姉ちゃん、注文していいかい?」
別の席から恰幅のいい作業服のオヤジが言って来る、とにかく店は繁盛していた、愛実は夏も忙しかった。
その忙しさが終わってからだった、愛実が愛子と一緒に店の奥の居間で落ち着いていると。
不意に携帯に電話がかかってきた、その相手はというと。
「あれっ、聖花ちゃんどうしたの?」
「うん、今お店に先輩来られたのよ」
「えっ、まさかと思うけれど」
「そうなの、美紀ちゃんと一緒にさっきまで夏休みの勉強してたの」
花沢美紀という、二人の中学時代からの友人でクラスは違うが同じ商業科に通っている。
「そこにいきなり来てね」
「どうして来たの?」
「いや、何かパンを食べたくなったって」
電話の向こうの聖花は愛実の問いに戸惑う口調で返した。
「それで来てね」
「またあんな感じ?」
「今はお酒は飲んでないけれど」
それでもだというのだ。
「騒がしいのよ、ちょっとね」
「やっぱりお酒入ってなくてもあんなのなの?」
「セクハラはしないけれどね」
「それだとかなりまし?」
「ええ、ましはましよ」
それは確かだというのだ、だがそれでもだった。
「けれどちょっとね、いきなりだから」
「ううん、難しいことになってるみたいね」
「まあちょっとだけれどね」
「今からそっち行っていい?」
愛実は暫く暇になると見てこう聖花に言った。
「そっちのお店に」
「いいわよ、先輩今お店のパン買ってるから」
「ふうん、パンをなの」
「そう、ジャムパンとチョコレートパンにクリームパンね」
「どれも甘いのじゃない」
愛実は聖花の今の言葉にふと疑問に感じて声を怪訝なものにさせて問い返した。
「先輩
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