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剣の丘に花は咲く 
第八章 望郷の小夜曲
第六話 変わらないもの
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た。
 期待と不安に揺れる瞳に、何を期待しているのか直ぐに理解した士郎は、小皿に乗せられた茶色い塊に箸を伸ばす。

「……ふむ、これは」
「どう、ですか?」

 もぐもぐと口を動かしごくんと飲み込んだ士郎は、口に残った油をワインで洗い流すと、グラスをテーブルに置いた。

「……七十点だな」
「七十ですか……もう少しいけると思ったんですが」
「初めてにしては上出来だ。まあ、普通は鶏のところを兎を使ったから少し味は変わったようだが、ま、これもなかなかいけるな」
「そうですか。じゃあわたしも一口……あ、フォーク……」
「ん? フォークを忘れたのか? なら、俺の箸を……使えないか」
「は、はい、すいません」

 士郎が食事に使う箸は、フォークやナイフも使えるが、やはり箸が手に慣れていることから、時間が空いた時に作ったものであった。初めて食事に箸を使った時、ティファニアたちは目をぱちくりとさせて驚くと、次に自分も使ってみたいと言い出したが、やはりと言うか上手く使うことは出来なかった。時折練習しているのを見かけたが、まだまだ上手く扱えていないようであった。

「謝ることはないだろ、そうだな……」
「あ、いいです。ちょっと取り―――」
「ほら、口を開けろ」
「え?」
「あ〜んだほら、あ〜ん」

 フォークを取りに行こうと立ち上がろうとしたティファニアに向かって、士郎が箸で小皿の上にある唐揚げを突き出す。目の前に箸で掴まれた唐揚げと、士郎を交互に何度も見比べ逡巡したティファニアだったが、一つ小さく頷くと、その小さな口を開いた。

「あ、あ〜ん」
「どうだ?」

 小鳥のように顔を真っ赤にしたティファニアが開いた口の中に、箸で掴んだ唐揚げを入れる。口の中に唐揚げが入るのを感じると、もぐもぐと口を動かしごくりと飲み込むティファニア。

「お、美味しいです」
「そうか、ではもう一つ」
「え、あ、その、あ、あ〜ん」

 もじもじと身体を揺らしながら照れてはいるものの、拒否することなくティファニアはぱくりと口を開き受け入れる―――が、

「は、はへ? おおひくて、くひがとひれまへん」
「ん? ああすまない。少し大きすぎたか」
「もご、ん……ぐ、ん……ん、ん」

 口の中に収まりきれない程大きな唐揚げを、ティファニアはその大きな瞳を涙で潤ませながらも必死に口に含むと、んぐんぐと飲み込む。

「お、おい大丈夫か?」
「は、はい」

 ごくりと大きな唐揚げを飲み込んだティファニアが、赤らんだ頬に手を添え恥ずかしそうに笑うと、士郎はティファニアの前にあるグラスの中にワインを注いだ。

「ありがとうございます」
「なかなか良いワインだな」
「はい、姉さんは帰ってくる度に色々お土産を持ってきてくれる
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